「ちょ!まっ、サー子!!」


閉じかけたドアを力強く掴まれて引き戻されると、早希の怒りがまた沸々と湧き上がった。


「…なに?」


余りに鋭すぎる早希の視線に、大和がビクッと肩を強ばらせる。
大の大人が、妹の眼差し一つでびくつく姿は残念としか言い様がないが…大和は、ゴホンとわざとらしく咳払いをして早希に向き直る。


「一週間程、バイトを休めるか?というより休んでくれ!」

「…はあ?」


ガシッと掴まれたドアが力任せに引き開けられ、大和の姿が視界いっぱいに広がる。


「旅行に行こう!!」


満面の笑顔で大きく両腕を広げる大和に、力強い一発をお見舞いしてやりたい衝動に駆られて握った拳は、一瞬の間が空いて勢いを失う。


「…りょこう……」


その言葉を頭の中で何度か反芻してみる。
何となく…いや、物凄く素敵な響きだった。


「そうだ、旅行だ!家族三人で旅行に行こう、サー子!!」