【蒼斗】
怒るかな…。
いや、泣くか?
非常に言いにくい…。
「あのさ…。」
「ん?」
「旅行行けなくなった…。」
「えっ?」
うわぁ…。
ヤバイよな…。
「仕事が入って…。ちょっと県外に…。」
「ヤダ…。」
「マジで…申し訳ない。」
「水族館は?温泉は!?」
「ナシで…。」
「いぃやぁだぁ~~!!」
俺が帰って来てからずっと計画してた旅行だし…。
でも仕事は行かないわけには…。
俺、今究極に立場悪い。
「そのかわり英梨の言う事何でも聞くし!!」
「じゃあ旅行行きたい…。デートしたい…。旅行~…。」
困った…。
でも今回は俺が悪いわけだ。
何としてでも許してもらわなきゃ…。
「英梨が欲しがってたカメレオン買ってやる!!」
「カメレオンそんなに欲しくない…。エイ見に行く方がいい!!」
ダメか…。
英梨のワガママも滅多にねぇ…。
相当行きたかったんだな…。
俺も行きたかったけど仕事だし…。
「旅行…行きたい…。」
「英梨…。マジでごめんな?」
「蒼君の嘘つき!!」
あぁ…。
泣いちゃった…。
マジどうしよ…。
「埋め合わせはちゃんとするから。」
「どうやって!?映画始まって新しいドラマも始まったら蒼君忙しいじゃん!!」
「そうだけど…。」
「出来ない約束なんてしないで!!」
はい…。
でも今回はマジで行けると思ってたから…。
「もう寝る…。」
「ごめん…。」
何とかなんねぇかな…。
なんねぇよな…。
予約してた温泉キャンセルしなければ…。
キャンセルしたくねぇ!!
「ヒロ、今回の仕事俺じゃなくてもいいんじゃね?」
「お前じゃなきゃダメだな。」
「何とかなんねぇかな…。」
「なんね。」
だよな~…。
その日を境に英梨の元気がなくなった…。
学校でもやる気ない…。
「黒崎さん、あなたの番よ?」
「えっ!?あ、すいません…。」
マジで俺のせいだ~…。
少しでも元気にしてやろう…。
「英梨、今からデートしよう?」
「学校…。」
「たまにはサボっても大丈夫だよ。後2時間しかないし。ね?」
「うん…。」
午後から英梨と授業をサボった。
せめてもの償いです…。
「どこ行く?」
「水族館…。」
「じゃ、電車でも乗ってみっか。」
「電車!?」
電車に乗るのは英梨の実家に行った時以来だ。
水族館のあるとこでちょっと遠くに行こう。
「何かこうして制服で電車とか乗ると自分が高校生なのを実感する…。」
「卒業までもう1年ないんだね。」
「だな。卒業したら結婚する?」
「………する。」
事務所とか世間の眼が気になるけど…。
俺は早く英梨を法律で束縛したい。
「そしたら1回家出て2人で住む。」
「出るの!?」
「ん。二人で暮らしてみてぇ。最終的には戻るかもしんないし、アメリカ住むかもだけど。天道家は悠陽か隼人さんに任せよう。」
新婚生活とか味わってみてぇし。
俺の家とか欲しい。
「蒼君、あたし年末年始は仕事入れない…。」
「俺も入れないようにする。そしたら旅行な?」
「うん…。ワガママごめんなさい…。」
いや、今回のは俺が悪い…。
次は何があっても旅行優先にする!!
「エイいるかな!?」
「いるんじゃね?俺、水族館とか撮影以外で行った事ねぇかも。」
「あたしも!!」
たまにデートも楽しい。
英梨が笑顔になってくれてよかった…。
マジで申し訳ねぇけど…。
今日は少しだけでも楽しませてやろう…。
着いた水族館は平日だけあって人もまばら。
「イルカだよ!!」
「見ればわかる…。」
「あたしクラゲ見た~い!!」
デートなんて滅多にしない俺には英梨のはしゃぎっぷりが新鮮に見える。
カワイイって言うよりも愛おしい。
この笑顔をズット見てたいと思う。
「生でクジラ見てみたいね!!」
「そうか?」
「うん。新婚旅行はクジラ見に行こう!!」
「俺船ダメ…。」
「あっ…。」
でもその夢を叶えてやりたくなる。
無理してでも英梨の笑顔が見たいと思ってしまう。
完璧に溺愛…。
「蒼君!!マンボウいた!!」
「ぬいぐるみ!?んなもん部屋に置かねぇからな。」
「記念に欲しい…。」
悲しげな顔は反則…。
しかも何記念だよ…。
「買ってイイ?」
「買ってやるよ…。旅行行けなかったお詫び。」
「うれしぃ~~!!」
また俺の趣味じゃねぇ物が部屋に増える…。
でも最近はそれが落ち着いたりする。
英梨に囲まれて生活してるような気になってちょっとイイ。
「滝川蒼斗君ですよね?」
「あ、はい。」
「デートですか!?」
「まぁそんなとこです。あっ、学校サボッてるんで誰にも言わないでね?」
「言わない!!」
マンボウのぬいぐるみのレジを打ってくれたバイトっぽい女。
俺が笑顔見せただけで顔赤くなっちゃって…。
英梨がヤキモチやくからやめろよ…。
「はい。」
「ありがと~!!蒼君大好き!!」
妬かなかったか…。
ぬいぐるみ効果は絶大らしい。
「じゃ、帰ります?」
「そうだね!!早く部屋戻ってぬいぐるみギュ~したい!!」
カワイイ…。
俺もギュ~~されてぇ…。
「「ただいま~!!」」
「蒼斗、英梨!!何でお前ら電話繋がんねぇんだよ!!」
「あっ、学校サボッて連絡くんのウゼェから切ったまま。」
なんか悠陽が慌ててんだけど…。
悠陽以外には家に誰もいないっぽいし。
なんかあった?
「寧音…。」
「寧音!?まさか産まれんのか!?」
「らしい。ってか早いよな!?まだ予定日まで2週間あるし…。」
「ビビッてんなよ…。」
寧音なら大丈夫だ。
ついでに産まれてくるチビ達も。
ヒナ兄と寧音の子供に何かあるわけがない。
「ヒナ兄は?」
「立ち合い予定だったんだけど仕事抜けらんねぇって…。蓮チャンも連絡取れねぇし…。亜香里チャンは県外に出張…。」
「ヒナ兄が仕事バックレたら殺されっからな…。で?莉里と隼人さんは?」
「隼人さんは仕事始まったばっかりだから忙しいだろ。莉里は多分撮影中…。」
「じゃあ俺達だけで行くか。寧音の実家に連絡したか?」
「したけど寧音が仕事だと思うから来るなって言えって…。」
ついに産まれんのか…。
俺、4人のおじさんになっちゃうよ!!
【英梨】
あたしと蒼君と悠陽君でタクシーに乗った。
変にドキドキしちゃう…。
まさかこんなに早く産まれるなんて思ってなかったし…。
心配…。
「俺はダブルで男に1万。」
「じゃ、俺はダブル女に1万。」
「英梨は?」
賭けるんですか!?
無事に産まれてくればどっちでもイイ…。
「男女に1万…。」
交ざっちゃったよ…。
寧音さんが知ったら怒りそう…。
15分で着いた病院で寧音さんの容態を聞いた。
まだ部屋にいるらしい…。
「寧音!!大丈夫か!?」
「は!?大丈夫じゃねぇ!!痛い!!でも絶対帝王切開はしない!!」
キレてる…。
でもたまに平気な顔になるんだけどすぐに苦しそうにしてる…。
見てるあたしがお腹痛い…。
「悠…。看護師さん呼んで…。限界ぃぃぃ~!!」
「わ、わかった!!」
痛そう…。
ナースコールで看護師さんを呼ぶとすぐに寧音さんはどっかに連れて行かれた…。
あたし達はどうすれば…。
「もしもし日向!?終わった!?立ち合いに間に合わなかったら殺されるから早く来い!!」
日向さんが来るんだ…。
何かホッとした…。
「天道さんの息子さんはどちら?」
「あ、俺です。」
「お父様はまだかしら…。」
「今こっちに向かってますが…。」
「『旦那が来るまで産まない!!』って言い張ってるんで…。どうしましょ…。」
寧音さんらしい…。
早く来てあげてよ日向さん…。
「多分後10分くらいで着きます。」
「10分ね…。じゃあお父さんがお見えになったら分娩室に直行するように行ってください…。」
頑張れ寧音さん!!
無事に元気な赤ちゃん産んでね!!
「俺焦って来た…。」
「お前が焦ってどうにかなんのかよ…。」
蒼君は冷静なんだ…。