【悠陽】
話しになんねぇクソ社長…。
全部娘の言いなりかよ。
ムカついた俺は事務所を辞める事にした。
美羽は泣いて止めたけど、あの社長とはやっていけない。
「悠が辞めるなら莉里も辞める。」
「お前は辞めんな。俺は将来決めてるからいいけどお前はモデルやってくんだろ?」
「別に今の事務所じゃなくてもやっていけるもん。今まで一緒にやって来た悠陽と違う事務所になるのはイヤ。」
イイ妹だな…。
この事は日向達に言うべきだろうか…。
いや、言わなきゃダメだな。
「日向、俺と莉里、事務所辞める。」
「はぁ!?何で急に…。」
日向に訳を話した。
黙って頷くだけの日向は怒ってるだろうか…。
「で?今からの事は考えての行動か?」
「考えてナイ…。」
「だと思った…。悠陽、もう少し我慢しろ。」
「は!?」
「お前と莉里を欲しがってる奴が引き抜きに来るから。それまで待て。」
引き抜きに?
今の事務所より条件がイイとこなんてナイだろうし…。
それにあの事務所から引き抜くならもっとデカイ事務所?
「んなとこねぇじゃん!!」
「それはどうかね?まぁ楽しみに待ってろよ。」
日向がそこまで自信ありげに言うんならそうなんだろうけど…。
不安と心配とイライラ…。
「今まで通り仕事しとけよ?」
「まぁ…。仕事は仕事だからちゃんとするけど…。」
何なんだ?
それより今の美羽のフォローも大事だ。
「ただいま~…。」
「おかえり!!」
「悠陽だ!!なんでいるの!?」
「会いたかったから!!メシ作っといけど食う?」
「うん!!」
元気ねぇな…。
でも今日は莉里と一緒だから大丈夫か…。
「何かあった?」
「ナイ。何もナイし仕事もナイ!!」
美羽も相当イラだってる…。
どうにかしてやるからな…。
クソ女アキのおかげではかどらなくなった勉強。
俺に予備校に通うヒマなんてないし…。
あのままエスカレーターで高校に進んでたらこんなに勉強しなくてもよかったハズなのに…。
美羽といる時はあんまり勉強する気にはなれない…。
「悠陽?」
「ん?」
「一緒に………お風呂入ろうか…。」
はい!?
美羽と風呂?
「顔赤いっスよ…。」
「赤くナイ…。ねぇ、お風呂入ろ?」
相当情緒に問題アリ。
美羽からこんな事言い出すなんて地球滅亡の前触れの予感…。
「あたし!!先に入ってるから5分たったら来てね…。」
「わかった。」
何が不安なのかわからない。
それでも今の美羽は弱ってるんだ…。
全くと言ってもいいくらい一緒に風呂には入らない俺と美羽。
美羽の精神状態が正常ではなさそうで心配だ…。
美羽に言われた通りに風呂に行くと、美羽が湯舟から顔だけ出してた。
カワイイ…。
「背中洗ってあげる…。」
「うん…。」
美羽がやっぱりおかしい…。
俺の美羽をこんなにしやがって…。
許さねぇ…。
「やっぱり緊張しちゃうね…。」
「するな。」
「悠…。モデル辞めないで…。」
「やめないから。やめないから心配すんな。」
「よかった…。あたしは辞めようと思ってる。」
は!?
あんなに楽しそうにしてたのに…。
まだ1年しかしてねぇじゃん…。
「もう悠陽に迷惑かけたくないの…。」
「はぁ!?お前勘違いしてねぇ?」
「えっ?」
「よく考えてみろよ…。美羽が今の状況になったのは俺のせいだろ。美羽はただの被害者だ。」
「でも…。」
「お前はただ俺にくっついて安心しとけばイイの。」
俺が全部解決してやるから。
だからそんな顔すんなよな~…。
「俺にも考えがあんだよ。」
「何!?」
「ヒミツ~。とにかく美羽にはモデルを続けていただきますわ。だから今だけ耐えてな?」
「うん…。信じてるからね?」
「おぅ。」
日向にはあぁ言ったけど…。
俺は俺で美羽を守りたい。
「琉伊君、ちょっとイイ?」
「何だ?美羽ちんは?」
美羽が寝たのを確認してから仕事をしてる琉伊君の書斎を訪ねた。
パソコンを隠してから俺の方を向いた琉伊君はタバコに火をつけて足を組んだ。
「美羽は寝た。琉伊君、俺、事務所辞めようと思うんだ。」
「で?」
「そこで琉伊君にお願いがあるんだけど…。」
「何だよ改まって…。」
「事務所を立ち上げてもらいたい。」
「は!?」
これが俺の考えたシナリオ。
琉伊君を社長にする。
それが美羽を守る上で1番イイ方法だと思ったから。
ビックリした顔で俺を見る琉伊君は今まで見た事がないくらいのアホ面…。
かっこよさ半減…。
「悠陽がやればイイだろ。」
「俺じゃムリ。日向か琉伊君くらいの知名度と実力と地位がなきゃ。だから頼んでる。」
「ははっ!!強気の悠陽君はどこ行ったんだよ。」
「ここまで来たらプライドとか捨てるしかねぇじゃん…。」
「大人になったな。」
本当は俺だって琉伊君になんか頼みたくねぇよ…。
でも日向はレジェもあるし…。
琉伊君に頭下げるしかない…。
「お願いします。俺と莉里と美羽を雇ってください。」
「悠陽、ちょっと来い。これ見てみ?」
琉伊君に言われてパソコン画面に目をやると、そこには事務所設立のための文章が並んでた。
お前はエスパーか!?
超能力者!?
怖いんですけど!!
「これ…。」
「今度俺が新しく手を出すビジネスだ。」
マジで…?
まさか日向が言ってたのはこれ?
「ヘッドハンティングしに行くよ悠陽君。これが俺が引き抜くリスト。」
「俺と…莉里と美羽…。マジで!?」
「おぅ。」
「でもケンジはいらない!!」
「あいつはイイモデルだ。で?いくらあればうちの事務所に来てくれますか?」
「む…無料で差し上げます…。」
「了解。先に頭下げなくてよかった~。娘のバカな彼氏に頭なんて下げたくねぇからな!!」
「はぁ!?だから俺にやれとか言ったのか!?」
「当たりまえだろ。悠陽に誉められた~。」
やられた…。
日向の言葉を信じて待てばよかった…。
「いつ引き抜いてくれんの…。」
「来週。お前達が親睦会に行く前だな。それまで内密によろしく。1日で一気に全員引き抜く。」
琉伊君…。
やっぱりすげぇな…。
革命が起こってしまいそうだ…。
これでもう安心だ…。
しかも琉伊君のリストにはすげぇのばっかりいた。
半数は伸びそうなモデルだったし…。
マジですげぇ…。
「どこ行ってたの悠陽…。」
「起こした?トイレ行って来た。オヤスミ美羽。」
「ん…。」
行き先は決まったとこでハデにやっちゃおうかな。
腹の虫が治まんねぇ。
「おはよ美羽ちん、デートしよう。」
「デート!?仕事でしょ!?」
「そうなんだけどアキなんかと撮っても楽しくねぇじゃん?」
「アキさんと…なの…?」
「そう。見においで?」
そんな顔すんなよな…。
大丈夫だから。
無理矢理連れて来た美羽はやっぱりテンションが低い…。
「悠陽君!!おはよ~!!今日もヨロ…シ…」
「ミュ~…。俺キスしてぇなぁ~。」
アキはもうシカトでイイや。
後は莉里に潰してもらお。
アキが見てる前でとにかくイチャる。
恨むなら自分を恨め。
俺は売られたケンカを買っただけだ。
「悠っ…。蓮…チャ…。」
「ん!?」
美羽とキスしてたら背中が凍るように冷たくなった…。
振り返れねぇ…。
デカイ手でガシッと頭を掴まれた…。
「職場でイチャってんなよクソガキ。」
「蓮チャン…。ひ、久しぶりだね俺の仕事来るの…。」
「黙れ。ずいぶん余裕あんだな?せいぜい怒られんなよ。このエロガキが。」
何か機嫌悪くね!?
きっと最近買った別荘がバレて亜香里チャンに怒られたな…。
「バレたの?」
「バレた…。マジでキレるし!!」
「衝動買いなんてするからだって…。」
「んな事言うならお前にはあの別荘貸してやんね。」
「ヤダ!!ごめん蓮チャン!!あの別荘最高だと思います!!」
「だよな!?さすが俺の孫チャンだな。」
今度美羽と二人で行こう~。