それから莉里は何かとあたしを指名するようになった。



その半面、あたしの正規の仕事が減ってしまってて、その代わりにアキさんが出る…。



申し訳ない…。



「美羽、イイ仕事回しておいたから。」

「何?」

「アキと組むの。」

「あたしが!?」

「そう。文句あるなら聞いちゃって宣戦布告の一つくらいしてきなよ。」



あたしが先輩に盾突くの!?



あたしにそんな度胸…。



でも確かにアキさんはあたしに何も言ってこない。



影でコソコソって…。



「俺、事務所辞めるわ。」

「えっ…。なんで?」

「あのハゲ社長が美羽をクビにするとか言い出したから。」



待ってよ悠陽…。



あたしのせいで辞める?



「これからどうするの?」

「わかんね。あの社長、見かけによらず権力あるみたいでどこも拾ってくんねぇかもな。」



そしたら悠陽はモデルを辞める…。



悠陽がモデルを辞める!?



そんなの死んでもイヤ!!



【蒼斗】



せっかく帰ってきたのに…。



「蒼斗先輩~!!」



ウザイのが付きまとってる…。



ってか今俺の人気がまた上がってしまったらしく…。



モテまくり?



「おはようレナチャン…。」

「朝から先輩に会えると思ってなかったから超嬉しい~!!」

「そう…。」



こんな日に限って英梨は仕事だし…。



マジ最悪…。



朝から気分わりぃ…。



「蒼斗君だ!!」

「悠陽君もイイけどあたしは蒼斗君派~!!」

「会長より優しそうだもんね!!」



俺は優しくねぇよ。



英梨には優しくするけど。



後は偽物の俺だ。



「先輩人気者でちょっとショック…。」

「なんで…。」

「だってレナの先輩だもん!!」



おい…。



何だよその勘違い…。



まぁ中3の時にレナに告られはした。



でも確実に振ったはずだ。



腕組んだりすんなよ…。



マジで勘違われたら英梨が泣く…。



「レナチャン?俺は英梨だけしか好きじゃないよ?」

「だって先輩さぁ、昔言ったじゃん、『レナチャンは俺にはもったいない。俺がもっとイイ男にならなきゃ釣り合わないよ』って。」



だからそれで振っただろ…。



しかも傷付けないように柔らか過ぎるくらいに言ってやったのに…。



泣かれちゃ最悪だから…。



「先輩はもうイイ男でしょ?レナにピッタリだね!!」



はぁ!?



お前どんだけプラス思考なんだよ!!



しかもナルシスト…。



最悪…。



「それは昔の話しで…。」

「だからレナはこの学園に来たんだよ?」



マジで辞めてくれ…。



ウルウルすんじゃねぇよ…。



マジでどうしたらいいのかわかんねぇだろ…。



「でも俺は今英梨と付き合ってて、英梨が好きなんだよ。」

「別れたらイイじゃん。」



わかわかわか、別れる!?



あの辛い辛い遠距離を乗り越えた俺と英梨に別れろと!?



本気でバカだな…。



あの中学頭よかったハズなのに…。



「俺は英梨と別れないよ。」

「じゃあレナは?」



知るかよ…。



勝手に追い掛けてきたんだろうが…。



「他の人探したら?」

「ヤダ!!先輩じゃなきゃイヤだもん!!」



そう言って走って行ったレナ…。



マジでどうすりゃいいんだよ…。



「モテますな。」

「裕介さん…。」

「カワイイなあの子。」

「顔だけ。マジうぜぇよ…。勘違いも程々にしとけって感じ…。」

「勘違いさせたお前も悪いんじゃね?」



俺が!?



でも傷つけないようにしただけで…。



しかも俺にも体裁ってもんがあるし…。



「どうすりゃいいかな…。」

「バッサリ切り捨てろ。相手にとってもそれが1番。」



わかった。



切り捨ててやりますわ。



「レナチャン、俺はこの先、何があってもレナチャンと付き合う事はナイよ。」

「どうして?」

「好きになれないから。」



ほら泣いた…。



だからめんどくせぇ…。



「ごめんね?」

「やだ…。諦められないもん…。」

「諦めて?」

「やぁだぁ~!!」

「そう言われてもムリ。」

「じゃあ…。デートとは言わないから一緒にごはん食べに行ってください…。そしたら諦める…。」



何でレナ何かと!?



相当憂鬱だし。



「英梨に聞いてからね。彼女に誤解されるのだけはイヤだから。」

「うん…。」



一回自分の教室に戻ってから英梨に電話をかけた。



仕事中か…。



「どうしたの?」

「今大丈夫か?」

「うん。」



さっきのレナの話しを英梨にそのまま伝えると、英梨は案の定キレた。



でもあいつに諦めさせる方法はそれしかない…。



諦められなくてもイイけどしつこそうだから…。



「それで本当に諦めるなら…。行ってイイよ…。」

「わかった。ごめんな?でも英梨しか好きじゃねぇからな?」

「わかってるよ…。早く帰って来てね?」



メシ食ったら終わりだから。



すぐ帰るし!!



「イイよレナチャン。でも約束は守ってね?」

「やった!!じゃあ放課後!!」



マジ憂鬱…。



英梨との制服デートはあんなにテンションがあがるのに…。



マジで早く帰ろう…。



この選択が大きな間違いだった。



「先輩!!今日はありがとうございました!!」

「じゃあもう諦めてね?」

「失礼しまぁす!!」



諦めたんだよな?



もうレナに付き纏われる事はナイな!!



「ただいま!!」

「何もされなかった!?」

「何もされてねぇよ?英梨に会いたかった~…。」



あんな女とメシ食ってもうまくもなんともねぇ。



やっぱり俺には英梨しかいにゃい。



「癒される…。」

「あたしもたまには抱きしめられたいんだけど…。」

「ダメ。今のマイブームは抱きしめてもらう事だから。」

「最近の蒼君カワイイね。」



英梨のがカワイイ…。



ひざ枕してもらおう。



「いつから仕事忙しくなるの?」

「6月かな~。」

「あたしもゆっくりしたいなぁ~…。」

「あっ!!5月の末に旅行行こうな?」

「本当!?行く~!!」



全て順調…。



何て幸せなんだ俺…。



「蒼君?」

「ん~…。」

「寝るの?」

「ん…。」



オヤスミ~…。



次の日に目覚めると、昨日ひざ枕してもらったソファに寝てた…。



首いてぇ…。



英梨はまだ寝てる…。



目が覚めてしまった俺は朝刊を持ってマッサージチェアに座った。



おい…。



何だこれ…。



1つのスポーツ新聞に俺がいる…。



見出しが…。



『滝川蒼斗浮気!?』



は!?



はぁ!?



昨日レナと行ったファミレスはまだわかる。



でも俺はラブホになんか行ってねぇ!!



でも見るからに俺とレナが腕くんでて…。



夜のラブホ街を歩いてる写真…。



まずはヒロに電話!!



「うわぃ…。佐伯です…。」

「ヒロ!?俺蒼斗!!携帯かけても出ねぇから…。」

「何時だと思ってんだよ…。」

「それよりヤバイ。」

「は!?」



新聞の事を話したら何も言わずに電話を切られた…。



ってか英梨に言わなきゃ…。



誤解されたくねぇ!!



「起きろ英梨!!」

「うるさいよ蒼君…。」

「俺ラブホなんか行ってねぇからな!?」

「そんな目立つ場所になんか行った事ないじゃん…。」

「ちげぇよ!!レナとだよ!!」

「レナ?」



やっと起きた…。



英梨に新聞を見せて昨日の事もちゃんと話した。



「じゃあこれは何?」

「俺もわかんねぇよ!!あっ、ヒロだ!!」



ヒロからの電話で呼び出された俺は寝起きの彩香チャンと一緒に事務所に行った。



納得した様子もない英梨が気掛かりでしかたない…。



「何でお前はこうも厄介な奴と関わる!!」

「関わってくんのは向こうだ!!俺はただメシ食ってファミレスで別れただけ!!」

「木下事務所の奴と絡むんじゃねぇよ!!」



レナって木下なのか!?



最近出始めた事しか知らなかったから事務所なんて…。



「これをきっかけにお前を潰しにくるぞ。」

「は!?俺は潰れねぇよ!!こんなスキャンダルくらいで…。」

「どんな状況かわかってんのか?ラブホ前だぞ。」

「んな場所通ってねぇし夕方に家に帰ったって。」



じゃあこの男は誰だ?



制服を着て髪型も横顔も俺で…。