パクッと結構な量の茶わん蒸しを食べた蒼君…。



動きが止まってますが…。



「おいしくない!?ヤバイ!?」

「マズイ!!味しねぇよ!!」

「ウソ!?」



食べてみた。



味がない…。



味無しプリンの和風バージョンみたいだ…。



「食べないでください…。」

「くくっ…。あははははははは!!」

「笑うなバカ蒼斗…。」

「醤油かけりゃ食えんだろ。それとも塩?」

「食べなくていいって~…。」

「食うよ。英梨が俺の為に作ってくれたから。全部食う。」



涙が出そうになった。



こんなにも味がない茶わん蒸しを笑いながら食べてくれる蒼君に…。



切ないような、でも嬉しいような…。



悔しいような幸せな感じがした。



「ごちそうさまでした。」

「本当にすいませんでした…。」

「次は味アリ茶わん蒸し食わせろよ?」



それは次を期待してもいいって事?



また今日みたいに笑って一緒にご飯食べられる?



マズくても全部食べてくれるの?



「蒼君…。あたし…。」

「英梨、俺はお前が好きだ。やっぱりお前じゃなきゃムリっぽい。」

「うん…。」

「本当に4月まで帰ってこないで我慢するつもりだったんだけどな…。どうしても英梨の気持ちが聞きたい。」



蒼君が『好き』って言った…。



ずっと聞きたかった言葉だよ…。



「あたしは…。蒼君が…。」



涙のせいで喋れない…。



そんなあたしの隣に来てくれた蒼君は優しく頭を撫でてくれた。



「俺は英梨が世界一好き。」



もう止まらない涙…。



蒼君の好きが嬉しくて嬉しくて…。



言葉に出来ない…。



「英梨?お前の気持ちは?」

「……き。蒼君が大好き~…。」

「よく出来ました。」



そう言って抱きしめてくれた。



この腕の中にズットいたい。



あたしは間違ってた…。



距離と時間に負けて蒼君を信じることもしないで…。



洋平君の優しさに頼った…。



ごめん蒼君…。



「洋平も好きとか言わねぇよな!?」

「言わないよ!!」

「よかった…。」



そう言って蒼君の手に引き寄せられた頭。



蒼君の顔が近づいてきて、ドキドキしながら目を閉じた。



洋平君の冷たいキスとは違う蒼君の温かくて優しいキス…。



好きだからこう思うんだ。



「超気になるんだけど聞いていい?」

「うん?」

「洋平とヤった?」

「えぇぇぇ!?」



してないよ!!



キスはしたけど…。



部屋にも入れた事ないし…。



でも蒼君は浮気したんだっけ…。



少し困らせてやりたくなった。



浮気した事を気にしてないわけじゃないけど、なんかあんまり重要な気はしない…。



でもやっぱりイヤ。



「したかしてないか覚えてない。」



そう言ってやった。



固まる蒼君がおかしい。



気の抜けたような顔だ…。



「そっか…。そっかそっか…。」



あ、落ち込んでる…。



あたしだって傷付いたんだからね!!



「まぁ…。俺も何しても許すって言ったしな…。うん…。そっか…。」



初めてこんな弱々しい蒼君を見た。



ごめんね蒼君。



「してないよ。」

「はい!?」

「洋平君とはそんな関係じゃない。浮気した蒼君に復讐してやっただけだよ?」

「マジかよ~…。超落ちたし…。ってか俺も最後までしてねぇし…。でもあれは完璧な浮気っスね…。」



最後までしてないの!?



何でもっと早く言ってくれなかったの…。



それだけで気持ちがだいぶ軽くなったよ…。



「もう触らないで…。」

「あい…。」

「この手で触れてイイのはあたしだけ…。」

「はい…。お前もな?」



あはははは…。



あたしも人のこと言えないや…。



「この口にキスしていいのは俺だけ。」

「ん…。」



もうさせない。



蒼君以外とはしない。



ごめんね?



「明日ヒマだよな?」

「明日!?」



あぁぁぁぁぁぁぁ!!



洋平君との約束が…。



今すごいイイ雰囲気なのに…。



「洋平君との…。」

「信じらんねぇ~。浮気相手とデートかよ。」

「違うの…。断ってちゃんと決着付けようと思って…。その…。」

「行けよ。」

「ヤダ!!蒼君といたいもん…。」

「約束は守るもんだ。俺シャワー浴びるわ。」



蒼君?



少し怒ってるような気もした蒼君…。



しかも行けって…。



無理ですよ…。



あたしの気持ちを聞かないでバスルームに行った蒼君。



行っていいの?



蒼君の気持ちが一瞬にしてわからなくなった…。



【蒼斗】



よりによって明日デートかよ…。



明日は英梨とどっか行こうと思ったのに…。



仲直りしたし…。



クソ洋平…。



でも残念ながら俺はお前に負ける気はしない。



シャワーを浴び終えてから髪を拭いてたらベルがなる音が聞こえた。



「今大丈夫?」

「ど、どうしたの洋平君…。」



洋平!?



初めまして洋平君。



「ちょっと英梨の顔が見たくて…。」

「どうして!?」

「蒼斗さんが帰って来てるって噂が…。」



はいはい、帰って来ましたよ。



今から修羅場だな。



だから服も着ないまま下だけ履いてバスルームを出た。



「英梨。シャワーどうぞ?」

「蒼君っ…。」



お前が洋平か…。



確かにイケメンだな。



まぁ俺には負けんだろ。



「初めまして。蒼斗です。」

「いたんですか…。橘洋平です。」

「英梨、早くシャワー。」



そう言って英梨をバスルームに追いやった。



俺を真っ直ぐ見て眼をそらさない洋平…。



なんか強気な奴だな…。



「明日デートだって?」

「そうです。ってか生蒼斗さんはテレビよりキレイっスね。」

「そりゃどうも。君もなかなかカワイイ顔してんね。」

「まぁ。明日、英梨は俺のです。」

「レンタルしてあげるよ。最初で最後のデートだからね。でもキスとかしてみ?おめぇなんかぶっ潰してやっからな。」

「裏表激しいっスね。」

「だな。俺って性悪だから。俺の英梨に触ったらどんな手使ってでも潰す。」

「ははっ!!蒼斗さん、約束は4月まで有効ですよね?」



そういわれればそうだった…。



英梨が揺らいだこの男…。



大丈夫だな。



俺は負けない。



「勝手に片思いしとけよ。英梨がイヤがる事をするのは筋違いとちゃいますか~?」

「そうですかね?結果がよければ全部丸く納まるんとちゃいますか?」

「ムカつくなお前。」

「俺もあんた嫌い。」



ぜってぇ負けたくねぇ!!



ってか英梨はシャワー浴びてなくね!?



音が聞こえねぇんだけど…。



「英梨ぢゃぁぁぁぁん!!」



はい!?



誰あなた!?



「あ、あんた洋平?」

「あ、はい…。」

「おぉ!!生蒼リン!!」



蒼リン!?



ってかマジ誰!?



「樹奈さん!?」

「英梨チャ~ン…。ちょっとお邪魔。」



は!?



俺はどうすれば…。



「洋平も蒼リンも入りなよ。」

「「はい…。」」



ってか洋平はいらねぇ!!



天使の聖域に入るな!!



「どうしたの!?」

「彼が~…。彼がね、別れるってぇぇぇ~…。不倫バレたって~…。」



不倫!?



あ、樹奈さんって下に住んでるとか言う…。



「それで!?」

「奥さんが訴えないから別れろって…。あいつあたしより嫁取った~…。」



そう言って泣く下の住人を少し可哀相に思った。



一通り慰めてる英梨と顔も見たくない洋平と俺…。



まぁ男二人は黙りこくってるしかないわけで…。



「もう報われない恋はイヤ…。」



そりゃ不倫はな…。



辛いだろ…。



「わかりますそれ…。」

「洋平…。」

「俺もぶっちゃけ報われないってわかってんです…。でもどうしても好きで…。」

「洋平~…。」

「蒼斗さんに勝てる気もしないし…。でも負けたくなくて…。って言うか多分もう半分意地になってて…。」



そうなのか!?



ってか語りだしてんじゃねぇよ洋平。



「運よく英梨が俺を見てくれたら…。それはそれでいいかな?とか思っちゃってて…。諦めなきゃいけないのに…。」

「あんた話しのわかる奴だね…。洋平、今日は飲み明かすよ!!」

「はい!!」



は?



おい、待てよお前ら…。



「英梨、明日のデートはキャンセルで!!樹奈さん、ヒマなら行きませんか?」

「行く!!カワイイ洋平!!」



おいコラ。