【英梨】
仕事の合間に入った3日の休み。
不思議なくらい空いた穴…。
「社長がたまには休めってよ。」
「嬉しいけど今は仕事してたいかも…。」
「でも最近頑張り過ぎだ。」
マネージャーの太郎さんが心配してくれてる。
あたし、そんなに弱ってるかな…。
家に一人でいると余計な事考えちゃうんだもん…。
樹奈さんとこにでも遊びに行こう…。
明るい樹奈さんといると楽しいんだもん。
でも洋平君との予定が2日目にある。
それで決着つけなきゃ…。
蒼君が頑張ってるからあたしもしっかりする!!
そう決めたんだ。
あたしはやっぱり蒼君が好きなんだもん。
「じゃあお疲れ。」
「はい!!太郎さん、帰り気をつけてね!!」
「あいよ~。」
さぁて!!
樹奈さんとこ行っちゃお~。
電話をしなくても直接行っちゃうあたし。
でも樹奈さんは夜はほとんどいる。
「おかえり~。」
「ただいま!!遊びに来ちゃった!!」
「入って!!」
なんか樹奈さんといると安心する。
お姉ちゃんみたいな。
「明日から3日休みなのぉ~…。」
「そうなの!?ヒマならどっか行く?」
「本当!?行く!!」
樹奈さんとデートだぁ!!
あたしは久しぶりの仕事と学校以外の外出に嬉しくてたまらなかった。
だからその日はそのまま話しが盛り上がっていつの間にか樹奈さんの部屋で寝てしまった。
「あたしシャワー浴びてから着替えて来るね!!」
「じゃあ準備終わったら電話して?」
「はぁい!!」
普通に樹奈さんの部屋を出て、いつも通り何の迷いもなく部屋のカギを開けた。
幻覚が見える…。
どうしているの?
あたしの部屋なはずなのに…。
何で蒼君がソファで寝てるの…。
「蒼く……ん?」
スースーと気持ちよさそうに寝てる蒼君はあたしに気付いてない…。
何でいるの?
頭が軽くパニックだ…。
だって蒼君はアメリカで撮影中で…。
本物?
悠陽君じゃないよね?
まさか日向さん?
違う…。
蒼君だ…。
「蒼君!!」
「はっ!!あっ…。おかえり。」
ヤバイ…。
蒼君が喋った…。
泣きそうだよ…。
「おいで。」
優しい蒼君の言葉であたしは蒼君に飛び付いた。
蒼君の腕だ…。
蒼君だ…。
「泣くなよ。」
「なんでいるのぉ…。」
「会いたかったから。帰ってきちゃったっス。」
蒼君の言葉とは思えない…。
『会いたかった』
もうダメ…。
嬉し涙がとめどなく溢れた。
優しく頭を撫でてくれて軽く抱きしめてくれてて…。
夢みたい…。
「朝帰りかよ…。」
「違うのっ!!樹奈さんって言う友達が下に住んでるの!!」
「そう…。洋平んとこかと思った…。」
そう言った蒼君は軽くため息をついてキツクあたしを抱きしめた。
まだあたしを思っててくれてる証拠だ…。
「あっ!!あたし樹奈さんと出掛ける約束してたんだ!!」
「行って来いよ。」
「蒼君は…。」
「俺はここで待ってっから。」
でも離れたくない…。
1秒でも長く蒼君といたい…。
「ごめんなさいするからちょっと待ってて…。」
「そんなに俺といたい?」
あっ…。
懐かしい意地悪な顔…。
「いたい…。」
「いいから行って来い。俺、今からラジオだし。」
「でも…。」
「終わったらここで待っててやるよ。」
お家帰らないの?
あたしのそばにいてくれるの?
「いつ帰るの?」
「お前の休みが終わる時。」
だからあたしが3日も…。
最高な休日だよ…。
「俺、一回家帰って仕事してくっから。」
「うん。早く帰って来る…。何か食べたいのある?」
「英梨…。なんてな!!じゃ、行ってくるな?」
「う、うん…。」
今物凄くドキドキした…。
でも蒼君はなんだかあたしに遠慮してるような感じがする…。
キスもしてないし…。
いつもの蒼君らしさがない。
なんだか溝が出来てしまったような…。
そんな感じ…。
だからあたしも近づいちゃいけないようで…。
早く全て終わらせたい…。
蒼君がいなくなってから仕方なくシャワーを浴びて出掛ける準備をした。
「もしも~し!!」
「準備出来た!!」
「じゃ、エントランス集合ね!!」
今日は蒼君とちゃんと話そう。
樹奈さんに会ってすぐに蒼君の事を話した。
「何してんの!!あたしなんていつでもヒマなんだから!!今から部屋帰りなよ!!」
「違いの!!蒼君は仕事に行ったから…。」
「そっか~…。若干会って見たかったな…。なら買い物行きますか!!」
やっぱり明るい樹奈さんといると楽しい。
余計な事を考えなくて済む…。
「ここ!?」
「何カップ?」
「あたし!?Dかな…。」
「見かけによらねぇ。」
はい!?
何その冷ややかな眼!!
「樹奈さんは何カップ?」
「ギリギリCだけど文句ある?」
「いえ…。ないです…。」
それでその眼差しね…。
ってか何で下着屋?
「はい、買っておいで。」
「えっ!?あたしの!?」
「そうだよ?」
「な、なぜ?」
「ケンカ、マンネリ、モヤモヤ解消法。身体で確かめる相手の気持ちってとこかな~。」
だからってその派手なのは確実に樹奈さんの好みじゃないかな…。
恐ろしい樹奈さんの眼差しに負けて買ってしまった派手な下着…。
「じゃあ夜ご飯の買い物してお家に戻ろう。」
「えっ!?まだいいよ!?」
「英梨、よくお聞き。今日は蒼斗君の胃袋も掴むのよ。」
「胃袋!?」
「『嫁のメシがマズイ』。そうなると旦那は家に帰って来ないのよ。だから今日は身体も胃袋もしっかりわしづかみにしなさい。」
樹奈様…。
師匠…。
いや、教祖様に見える!!
でも…。
「肝心な心は?」
「それは英梨チャン次第でしょ。あたしの知らない域。」
そうだよね…。
うん!!
とにかく頑張れって事だと思ったあたしは樹奈さんと一緒にスーパーで買い物してから帰った。
やっぱり蒼君より先に帰ってきたあたしはエプロンと言う名の戦闘服を装着した。
蒼君が好きなもの。
愛情込めて作るんだ!!
蒼君は見かけによらず和食好き。
1番好きなのは茶わん蒸しだと思う。
初めて挑戦する茶わん蒸しにドキドキしながらダシを取った。
でもどうすればいいかわからない…。
「樹奈さ~ん…。茶わん蒸し作れない…。」
「ごめん。あたし、和食は専門外。」
嘘…。
誰に聞けばイイの!?
お母さんになんて聞いたら加代子スペシャルになっちゃうし…。
義姉の理香チャン?
「茶わん蒸し?」
「うん。」
「冷ましたダシによく溶いた卵をこしながら入れて蒸せばいいの。具も入れてね?」
「ありがとう!!」
うまくできますように…。
ってか出来なかったら胃袋が掴めない~…。
それでもなんとか形になった茶わん蒸し。
見た目上出来。
味、不安…。
それからも煮物とか魚とか…。
一生懸命作った。
夕方になってピンポーンと言うベルの音と共に蒼君が再びやって来た。
「ヒロに捕まってて遅くなった…。」
「お、お帰りなさい…。」
なんだか照れ臭い…。
自分の部屋なのに蒼君がいると違う場所のような気になってしまう。
「ただいま。」
照れてるあたしに蒼君は優しい笑顔でそう言った。
やっぱり遠慮してる…。
いつもならキスするはずだもん…。
「すげぇイイ匂いすんだけど。」
「あ、ご飯作ったの!!食べる?」
「食う!!」
蒼君ちのテーブルと違ってあたしの部屋の小さなテーブルに並ぶ2人分の夕食。
やっぱり蒼君を直視できない…。
恥ずかしいから…。
「茶わん蒸し~!!作ったのか!?」
「味の保証はできません…。」
「ズット食いたかったし!!いただきます!!」
やっぱり蒼君は茶わん蒸しが好きだ。