それでも歌うんだ。
声が震える…。
目の前にいるのは俺の実の親父…。
「親父なんかにビビってんなよ隼人。」
「でも手が…。」
「お前の家族は俺達だろ!!」
「………うん。頑張る!!」
大丈夫。
日向さんだってメンバーだって…。
俺に帰る場所をくれる人達がいるんだ。
だから俺はいつも通に皆と歌った。
「イイよ。最高。」
褒められた…。
しかも日本語で…。
「話せるんですか?日本語…。」
「少しだけ。君の腕にかかるとこうなるのか…。じゃ、次はオリジナルで僕とあわせてみようか。」
日本語…。
日本語はどこで覚えたの…。
まなママに?
それから時間はあっと言う間に流れて俺達と世界のジャンの初共演収録が終わった。
「メシ行きませんか!?」
「ちょっと約束があってね…。だからまだ日本にいるからこちらから連絡するよ。君達にはまた会いたい。」
そう言われて夢のような時間は終わった。
ジャンが言った約束…。
日向さんが取り付けた約束…。
仕事が終わった俺は日向さんと待ち合わせした場所でひたすら待った。
「隼人?」
「あっ…。日向さん…。」
「どうだった!?」
「優しかったし…。かっこよかった…。」
「そうか。じゃ、行くか。」
「うん…。」
日向さんの車に乗って待ち合わせの料亭…。
俺は今からカミングアウトする。
俺が息子だって。
先に来た俺達は座敷に通されて用意されてた席に座った。
「汚職議員の密会みたいだね。」
「なんだそれ…。」
「何か言ってよ…。俺死にそう…。」
「お前が死んだら保険金で豪遊してやるよ。」
「ひでぇな…。」
隣に座る日向さんがどれだけ心強いか…。
日向さんにはわからないだろうな…。
でも俺の頼れる人。
それからしばらくしてスゥーと開いた襖から父親が顔を出した。
日向さんとは仕事で会った事があるらしく、再開をよろこんでるような感じで…。
目があった俺を見てわけのわからない顔をした。
やっぱり俺は息子だって気付かれてない…。
「日向、なんで隼人が?」
「お前日本語喋れんの!?」
「昔…。日本に来ようとした事があって。少しだけなら…。」
「そう。まぁ座って?」
「………。」
座布団に座ったジャン…。
どう切り出したらイイ?
「隼人って名前に聞き覚えはありますか?」
「いや…。」
「俺…。俺って…。」
言えない…。
どんな顔されるのか…。
歌うより怖い。
「ジャンの息子だって。」
「日向さん!?」
「サクッと言っちまった方が楽だろーが。」
「そうだけど…。」
ジャンの顔は?
顔を見るのが怖い…。
「……なまの子か?」
「あっ…。はい。」
「でも息子は瞳がグリーンって…。」
「これ…外せば緑です。」
見せた方がイイかな…。
気付かれたくなくてした黒のコンタクト…。
信じてもらうには外すべきだよね。
だからコンタクトを外した。
「お前が…。まなの…。いや…俺の子…。」
「みたいです。」
「まなは今…。」
「亡くなられたそうです。俺は…葬式とか出てないけど…。全部済んでから姉から連絡が来ました。」
「元春の娘からか…。」
姉の父親も知り合いなんだ…。
俺はどうすればいいんだろ…。
「すまなかった…。」
「えっ…。なんで!?」
「自分勝手な事でお前を…。申し訳ない。」
それはどんな意味?
簡単にヤって出来た事?
それとも俺を探さなかった事…。
一瞬の気の迷いで俺が出来たから…。
頭をさげる父親…。
「日向、少し二人で話したい。」
「わかった。じゃ、後でな。」
日向さんが席を外して二人だけになった空間…。
やけに重い空気…。
「昔…。俺が17の時、俺はまなと不倫関係にあった。」
「どうして…。」
「15で家を飛び出して、アメリカで成功するって。そう思って来たものの…。全くうまくいかなかった。」
それから父親が話してくれた真実…。
ジャンは歌手になりたくて、そこで出会った姉の父親のギターの元春さん。
どちらとも有名じゃなかったらしい。
その奥さんのまなママは音楽関係の仕事をしてて、ジャンは初めは何も知らなかった。
でもお互いに惹かれ合って…。
気付けば不倫…。
まなママとは俺が出来た事と結婚してる事を言った時に別れたって。
ズット元春さんの子供だと思ってたらしい。
でも噂で聞いた俺の眼の話し…。
それからまなママが単身日本に帰ったって事。
ジャンは後を追い掛けようとしたらしいんだけど、その頃に入ったデカイ話しに負けて今まで来たって…。
「まなとは元春が死ぬまで会わなかった。その時にお前がいなくて…。で、日本のどこかにいるって聞いたのがまなとの最後…。」
「あの…。」
「ん?」
「ご家族はいらっしゃるんですか?」
「妻と…2人の娘がいる。」
やっぱり言わなきゃよかったかな…。
俺はその家族を壊すのだけはイヤだ。
「15年施設にいたんです。親は死んだものと思って。」
「申し訳なかった…。」
「できればあなたに会いたくなかった。あなたの家族を…。壊したくない。」
「妻は知ってる。世界のどこかに息子がいる事…。」
「そうですか…。俺の事は…忘れてください。」
父親に家族がいて、それにひびを入れたくない。
俺が出来る唯一の親孝行。
感動の再開ってわけでもないし…。
「ムリだ…。ズット…ズットお前を気にしてた。」
「だったら何で探さないんだよ!!俺がどんな思いで育ってきたかあんたにわかんのかよ!!」
「どんなに拒まれても俺はお前に償いたい。」
「今更…父親面されても困るし…俺だって受け入れられない。あなたは凄い人です。でも俺はあんたを許さない…。」
よくわからない。
自分が何を言いたいのか。
感情だけが先に出て来て…。
「それでも俺はお前を愛する自信はある!!」
「そんなキレイ事は一人になって言ってみろよ。孤独がどれほど辛いか。わかってから言えよ…。」
涙が止まんない。
悔しくて…。
苦しくてたまんない…。
「申し訳ない…。」
「すげぇキツくて…。生きてくので精一杯で…。人の温もりとか…マジでわかんなくて…。とにかくズット寂しかった…。」
これが俺の本音?
寂しいとか…。
正気なのかよ…。
ジャンにぶつけた感情が何なのかわからない。
でも俺は凄くこの人に…。
「どうしたらイイ…。お前の辛さを汲んでやれない。」
「わかってる。イイんです…。ただ俺の気持ちを聞いてほしかっただけだと思うし。」
「………俺の息子。会いたかった。」
抱きしめてもらいたい。
席を立ったジャンは俺の心をよんだかのように俺を抱きしめた。
これが本物の感触…。
「ごめん。ごめんな…。」
それだけを繰り返して涙を流す父親に、俺は何も言えなかった。
言葉にならなくて…。
嬉しくて温かくて、莉里に抱く感情のような温もりがあった。
「もうイイすか?」
「日向さん…。空気読もうよ…。」
「腹減ってんだよ俺。」
この人は本当に最高だ…。
それから聞かれた俺と日向さんの関係。
「育ての親。みたいな感じかな?」
「お前の親父になった覚えはねぇぞ。」
「えっ!?この前息子みたいって…。」
「あれは酔ってた。」
マジ!?
でもそれは日向さんの照れ隠しだってすぐに気付いた。
口元が緩いんだもん。
「隼人、アメリカで…一緒にやらないか?」
「歌を?それとも家族を?」
「両方。」
「やらない。俺はもう一人じゃないから。でも皆に出会う前にそう言われたら確実に行ってた。」
「そうか…。いつかお前に紹介したい…。妹達を。」
あっ…。
そうか…。
俺って訳ありの4人兄妹!?
「一気に増えたな。」
「ね!!でも…。俺はもしかしたらその子達に受け入れられないかもしれないから。家族が壊れるくらいなら俺の事は秘密にして墓場まで持ってってください。」
これでイイんだよね。
俺には愛情たっぷりな家族がいるもん。
「実は娘達も知ってるんだ…。この事だけは秘密にしちゃいけないと思って生きてきたから。」
「でも…。」
「ジャンの来日が多いのは何でか。わかってくれたかい?」
えっ…。