【蒼斗】
こっちに来てからマジで忙しい…。
英梨の声を聞いて癒されてる。
でも最近英梨の様子がおかしい…。
何だか俺と話してても上の空っていうか…。
何を考えてるのかわからない…。
「蒼斗、どうかした?」
「達也…。」
こっちに来てから仲良くなった達也は日本人。
アメリカ育ちの日本人。
俺と歳が同じで彼女もいる。
カッコイイハリウッド俳優。
今は俺の出る映画のわき役をしてる。
でも俺の幼馴染って感じの役。
「俺、彼女いんじゃん?」
「そう言えばいるって言ってたな?」
「最近よくわかんねぇ…。」
「何か疑わしいのか?」
疑わしいって言うか…。
何かおかしい…。
英梨が俺を好きじゃないような…。
そんな感じがしてならない…。
電話もそんなにできてるわけじゃない…。
俺の英語の発音とか…。
そんな小さな事でも撮りなおしたり…。
マジで精神的にも辛い…。
そして英梨が俺以外の人を見てるような気がしてならない…。
「疑いたくはねぇけど…。何かそっけないって言うか…。」
「でもそのうち会いに来るんだろ?」
「って言ってたけど…。」
俺、こんなに自信がないのは初めてだ…。
離れるってこんなにもキツいことなんて知りもしなかった…。
「なんだ?英梨、浮気したのか?」
「涼司君…。かなり痛いとこつくね…。」
「浮気の一つや二つ…。大した問題じゃねぇだろ。」
「浮気ならね…。」
浮気ならいい。
でも、もし英梨が俺以外の男に揺らいだりしたら…。
俺はどうしたらいい?
身を引くべきか?
でも俺は英梨が最後の女って思ってるのに…。
今日は電話しよう…。
そう心に決めて帰った。
部屋に入ってからすぐに携帯をにぎりしめてドキドキしながら電話をかけた。
「はい。」
「今平気?」
「うん…。」
「何か最近元気ねぇよな?何かあったか?」
怖い…。
この先を聞くのが…。
「あのね…。」
「あっ!!ってかお前旅行の日に来るんだよな!?」
「えっ!?あ、うん…。」
「どうにかして動ける時間作っとくからな!!」
んな事どうでもいい…。
俺は逃げてる…。
聞いてしまったら英梨が本当に離れて行ってしまう気がして…。
聞けない…。
「蒼君…。あたし仕事に戻らなきゃ…。」
「そっか…。頑張れよ…。」
「うん…。」
心が擦れ違ってる…。
俺からの電話が嬉しくないみたいだ。
やっぱり勘違いじゃない…。
英梨の気持ちがわからない…。
何考えてんのか全然わかんねぇよ…。
寝て起きても考えるのは英梨の事…。
「お前さぁ…。無駄に変な事考えてねぇ?」
「考えてる…。」
「ふざけんなマジで!!仕事しに来たんじゃねぇのかよ。そんな演技しか出来ねぇなら日本に帰れよ。」
涼司君にも怒られて達也にも心配をかけてる…。
こんなんじゃダメだ。
わかっていながら治せない。
調子狂いまくり…。
「蒼斗、夜空いてる?」
「まぁ…。」
「たまにはイヤな事忘れろよ。」
達也が俺を連れて来てくれたのは達也の家。
彼女と初めて会った。
達也の彼女はハーフらしい。
ブロンドの髪が似合う日系のハーフ。
「いらっしゃい蒼斗。」
「羽華、噂通りの美人さんだね。」
「あなたもね。」
羽華に挨拶をしてから達也の部屋に入った。
女がいる…。
「羽華の友達。蒼斗飲めるよな?」
達也から渡されたビール瓶…。
そういう事か…。
俺は達也から渡されたビールを飲んだ。
「達也って日本語話せんの?」
「少しな。でもクレアのがうまい。」
達也の彼女の羽華の友達。
少しだけ雰囲気が英梨に似てる…。
錯覚かもしれないけどな…。
「蒼斗ってカワイイ。」
「可愛くないよ。本当に日本語話せるんだね。」
「うん。ママが日本人なの。」
クレアの第一印象は英梨に似てる。
そう思った。
「タバコは?」
「イイ。ってか酔った…。」
「弱いな。」
「疲れてるし最近全く飲んでなかったし…。元から強くないから…。」
アルコールのせいか頭が痛い…。
気持ち悪くてもうイヤだ…。
目の前でキスしてる達也と羽華…。
隣にはクレア…。
英梨?
「英梨…。」
もう英梨以外に見えなかった…。
架空の英梨だって頭の中ではわかってても身体が勝手に動く…。
「隣の部屋、使っていいから。避妊しろよ?」
飲み過ぎ。
酔い過ぎ。
そんな状態のまま俺はクレアと達也の部屋を出た。
目が覚めると俺は裸で隣のクレアも裸で…。
英梨よりも大きな目が俺を見つめてた。
「日本人もあなどれないね。」
俺は何をした?
記憶が曖昧で…。
二日酔いのだるさと罪悪感だけが残った。
「どうした蒼斗…。」
「別にどうもしませんよ。」
苛立ちや罪悪感を打ち消すように仕事に没頭した。
ヤったかヤってないかわからない状況で英梨に対する罪悪感は増して行くばかり。
撮影の中で裸で俺に乗ってるエロい金髪美人にも全く揺らがない。
俺は最低だ…。
それしか頭になくて英梨には更に電話を出来なくなった。
「明日来るんだって?」
「そう…。」
「クレアの事は気にすんな。あれは夢だ。」
達也が悪いんじゃない。
俺の気持ちの弱さに問題がある。
攻めるのは自分自身…。
ごめんな英梨…。
【英梨】
フラフラするあたしの気持ち…。
蒼君に会いたい気持ち…。
洋平君が気になってしまう気持ち…。
あたしの中の葛藤はいつまで立っても終わらない…。
「気をつけてね!!」
「英梨もな?」
「うん!!いってらっしゃい!!」
「おぅ。」
皆旅行に出かけた。
この広い家にはあたしとジュン。
あたしは今日仕事が終わったら蒼君に会いに行く。
あれから洋平君とは何もない。
蒼君の事も相談できるわけもなく…。
あたしは蒼君と洋平君の間を行ったり来たりしてるような気分。
「おじゃましま~す。」
「ちぃ君!!」
「どこ!?」
「ここ!!」
今日からジュンは千明君ちにお泊り。
皆いなくなったら可哀相だから…。
「カワイイ~!!」
「でしょ!?よろしくお願いします!!」
「了解!!」
人懐っこいジュンは千明君に抱かれても平気な感じ。
ジュンを千明君にたくしてから仕事先に向かった。
「おはよう英梨…。」
「おはよ…。」
洋平君はあたしが今日アメリカに行く事を知ってるからかテンションが低い…。
気まずい…。
それでも仕事は仕事。
それは洋平君もちゃんとわかってる。
「お疲れ様でした!!」
もうこの場を逃げ出したかった。
洋平君と無駄に話してしまえばあたしがアメリカに行こうとしてる気持ちが揺らぐ…。
「英梨…。」
話したくない…。
今からあたしは蒼君に会いに行くの…。
「英梨!!行かないで…。」
悲しそうな洋平君の声と共に捕まれた腕…。
振り返る事ができない…。
「俺、浮気相手でもイイから…。」
その言葉がグサッと胸に刺さる。
洋平君はそんなにあたしが好きなの?
あたしは蒼君が…。
好きなんだよね?
振り返る事が出来ないあたしはまた洋平君に抱きしめられた。
振り払って蒼君の元に行かなきゃ…。
頭ではそうわかってても動いてくれない身体…。
「この前の泣き顔が忘れらんない…。蒼斗さんに会って戻って来たって…。英梨はまた泣く。」
「わかってる…。」
「俺なら英梨を泣かせたりしないから…。」
今のあたしにそんな優しい言葉はかけないで…。
洋平君の暖かい腕を掴んでしまいそうだよ…。
「洋平君…。あたし…。」
「ウソ。気をつけて行ってきな…。俺、待ってるし。」
そう言ってパッと手を離してあたしに背を向けた洋平君は撮影に戻った。
苦しい心…。
あたしは誰が好き?
どうしたらいいのー…。
それでも時間は流れてしまう…。
立ち止まって蒼君に会いに行くチャンスを逃せない…。
荷物を持って空港まで急いだ。