まぁ大丈夫。



色んな俳優に口説かれて来たけど揺らいだ事はない。



「えっ!?相手が洋平君!?」

「何か問題あんのか?」

「ない…。」



新しい主演ドラマの相手が洋平君…。



あたし、蒼君になにも言えてない…。



「もしもし蒼君!?あのね…。」

「わりっ!!後でかけ直す!!」

「あ、うん…。」



時差とお互いの仕事の時間が合わなくてまともに話せない…。



あたしの中の蒼君メーターがピンチなんです…。



「どうしたの?浮かない顔しちゃってる。」

「そんな事ないよ?」

「蒼斗さん?」



洋平君はあたしに必要以上に絡む…。



でも純粋そうな洋平君にあたしは心を開いてしまって…。



いつの間にか悩みを聞いてもらうようになった。



「俺なら寂しい思いさせないけどね。」

「仕事だから…。夢だから仕方ないの!!」

「強がり…。」



この前聞いた言葉は空耳だった。



そう思い始めた。



学校でもたまに見かける洋平君との仲はどんどん縮まる。



逆に蒼君との距離はどんどん遠ざかって…。



毎日来てた電話も3日に1回になった。



もう寂しくて耐えられない…。



蒼君がいないとダメ…。



まだ蒼君が行ってから半月。



夜になると涙が止まんないよぉ…。



蒼君ともっと話したい…。



蒼君と一緒に寝たい…。



蒼君に触れられたい…。



「英梨?何してた?」

「蒼君…。」

「お前…。泣いてんのか!?」

「もうやだ…。蒼君がいないの苦しい…。」

「マジ…ごめんな?俺もあんまり順調ってわけじゃねぇから…。」



わかってる…。



忙しいのはわかってる…。



誰が悪いとか、そんな話しじゃないの…。



仕方ない事だってわかってるんだよ…。



でも苦しいの…。



蒼君の近くにいれない事が…。



あたし弱い…。



「何か…英梨が安心する事言ってやりてぇんだけど…。思い付かねぇ…。」



『好き』って言ってくれれば安心する。



でも蒼君は滅多に言わないんだよね…。



「あ、俺行かなきゃ…。悪いな…。またかけてこいよ?」

「うん…。頑張って…。」



切りたくないのに切らなきゃいけない電話も辛い…。



短時間では蒼君が満タンになんないよ…。



「おはよう英梨。」

「おはよう洋平君…。」

「ブサイク…。また泣いた?」

「ちょっとね?でも大丈夫!!仕事はちゃんとやる!!」



ムリして作る笑顔も辛い…。



休みがあれば会いに行きたい…。



蒼君のとこに行きたい…。



あっ!!



旅行の為の休み!!



「蓮さん、あたし今回旅行行かないで蒼君に会いに行って来る!!」

「蒼斗んとこには行かないんじゃなかったか?」

「もう行く事にしたの!!」



会える。



蒼君に会えるよ!!



嬉しくて嬉しくて洋平君にこの事を話した。



「行かないでよ。」

「なん…で?」

「言ったじゃん。俺、英梨を蒼斗さんから奪うって。」



あれはやっぱり…。



本当だったんだ…。



「俺、浮気相手でもいいよ?」

「う、浮気!?」

「そこから本気になるから。蒼斗さんには言わないで。俺が英梨の寂しさ埋めてあげる。」



そう言ってオデコにキスされた…。



見かけと違うっ!!



「拒否りなよ…。」

「えっ!?あ、やめて!!」

「今更。」



ただビックリして動けなくなっただけで…。



なのになんで口にキスするの!?



「ちょっと洋平君!!」

「どうだった?久しぶりのキス。顔赤いよ英梨。」



顔が赤い!?



そんなわけない!!



あたしは洋平君とどうにかなるとか考えてないもん!!



「最低!!」



なのに何でドキドキしてるんだろう…。



久しぶりのキス…。



でも相手は蒼君じゃなくて洋平君…。



「英梨?」

「追い掛けて来ないで…。」

「ヤダ。俺、英梨が好きだから。」

「あたしが好きなのは…。」



蒼君だけ。



そう言おうとしたら強い力で洋平君に抱きしめられた。



「毎日影で泣いてて幸せなの?蒼斗さんだってあっちで何してるかわかんないでしょ?」

「あたしは…。蒼君を信じてるもん…。」

「俺が代わりになってあげる。蒼斗さんに会えなくて寂しい隙間埋めてあげるから。好き…。」



蒼君が言ってくれない『好き』って言葉に心が揺らぐ…。



でも今抱きしめられてるのは蒼君じゃなくて洋平君なの…。



洋平君なのに…。



「うわぁぁぁぁん…。」



何でこんなに心が安らいでしまうんだろう…。



蒼君がいなくなってからもうすぐ1ヶ月。



あたしは洋平君の腕の中で今まで以上に泣いた。



【隼人】



俺なんかしたかな…。



莉里が部屋から出て来ない…。



「莉里?カギ開けて?」

「イヤ!!」



何で!?



もうすぐ学校が夏休み。



AQUAの夏ツアーの季節。



夏休みに入ったらすぐに猛スピードで全国を駆け巡る予定。



少しでも長く莉里といたいのに莉里に拒否られてる俺…。



「寧音さん…。莉里出て来ない…。」

「何かやらかしたわけ?」

「何も…。」



だって最近はおりこうさんで飲みにも行かずに直帰してるし…。



浮気とかは絶対ないし…。



まさか莉里に好きな人が出来たとか…。



そしたら俺フラれる!?



マジ!?



「何いじけてんだよ隼人…。」

「莉里に好きな人が出来たんだ…。」

「は!?何わけわかんねぇ妄想してんだよ…。」



じゃあ何で俺を拒否るの!?



莉里~…。



仕方なく日向さんがくれたバイクに乗って一人で学校に向かう俺…。



莉里の事しか考えられない…。



その時登校中の悟発見。



「朝から忙しそうだねさと君。」

「今日は後ろにペット乗せてねぇの?」



同じ学校の女の子とイチャイチャしながら歩いてた。



全く知らない子だ…。



「何か引き込もったんだよね…。」

「ケンカか?まぁイイや。乗せてけ。」

「どうぞ?」



さと君、女の子はイイの?



ってか悟は女に冷たいんだよね…。



「あたしは!?」

「乗れねぇじゃん。じゃあな。」



まぁこれが悟だから仕方ない。



悟は昔失恋してから女に対して一線置いてる感じがする。



もう恋はしない気なんだろうか…。



そんな悟と一緒に学校に入った。



「悟って恋しないの?」

「苦しいからしない。ってかそこまでのめり込みたくない。」



そっか…。



恋ってイイもんだけどなぁ…。



海もモリリンとどうなったかわかんないし。



裕介も頑張ってるみたいで。



仁君は絶対何も言ってこないつもりだけどたまに電話してるとこ見かけるし。



悟だけだよ…。



「ツアー終わったら新曲出せるかな?」

「隼人の腕次第。」

「たまには悟も書いてよ…。曲は作るから。」

「俺に書かせたらとんでもねぇぞ?イケない言葉連発だ。」



それはダメだね…。



それより莉里はどうしちゃったんだろ…。



学校こないつもりかな…。



「桜井!!」

「おはよう大和君。」

「お前今日日直だから忘れんなよ。」



ニッチョク!?



何それ!?



「何するの!?」

「授業前の黒板消しと号令かけんのと日誌書く。まぁそんくらい。」



大仕事じゃん!!



ヤダヤダ!!



「大和君がやりなよ。」

「は?お前まさか日直って何だかわかってねぇわけ?」



知らないよ…。



そんな俺は大和君に日誌を渡されて初日直!!



「号令かけろ。」



号令!?



自衛隊みたいなやつ!?



「敬礼!?」

「違うから!!起立、礼、着席だ!!」



そうなんだ…。



あ、何かそんな事授業前になってるかも…。



「日直楽しいね!!」

「ははっ…。」



莉里の引きこもりの意味はわからないまま日直作業をこなした。



黒板って消すと粉が降って来る…。



「手伝う!!」

「美羽チャン、ありがと。」

「隼人さんも背高いね!!何センチ?」

「183くらい。もう伸びないよ。21歳だし!!」

「悠陽と同じくらいだね!!」



そういえば悠陽君は今日休みか…。



仕事し過ぎだよ悠陽君。



「そう言えば莉里!!連絡取った!?」

「メールしたけど今日は休みって…。何かあったの!?」



美羽チャンも知らないらしい…。



はぁ~…。