「あ、あれがあんたの正体なの?」

 どきどきしつつも、確かめるべきところは確かめる。
 この甘いマスクに惹かれて言うこと聞いた途端に、昨夜の悪魔みたいな正体を曝されたら立ち直れないかもしれない。

『お前を連れて行くとか言ったことか? あれは冗談だ』

 ぶつん。

「この性悪八郎が! あんたなんて、八兵衛って呼んでやる! この、うっ○り八兵衛め!」

『な、何を言っておるのかさっぱりわからん。が、お前が怒っているのはわかる。すまぬ、この通り』

 がばっと平伏され、私は今しも振り下ろそうとしていた手を止めた。

『遊び半分に女子を泣かすなど、してはならぬことだった』

 またも真剣な表情で見上げてくる。

 くっ。
 その表情、反則です。

 悔し紛れにぎりぎりと歯ぎしりしていると、がらりと部屋の引き戸が開いた。

「全く、また一人で騒いで。この暑いのに、元気なこったね」

 祖母が木のしゃもじで肩を叩きながら顔を覗かせた。
 やっぱり目の前にいる八郎のことは気にもしない。
 見えてないんだね。

「起きたんなら、仏さんにお膳供えるから」

 いそいそと台所に戻る祖母を見、次いで八郎に目を戻すと、あれ、また空気が違う。
 じ、と祖母を見る八郎の目の切ないこと。