いつもの私じゃない。



こんな動けない足を持った覚えはない。



「何があったか知らないけど…おまえには期待してるからさ、頼むよ宮田」



ポンッと先生の手が肩に乗った。



私は静かに頷いて見せる。



視界の隅で、男子バスケコートから誰かの視線を感じてはいたが、気づかないふりをした。



きっと見てしまえば、何かが変わってしまうと



そう感じたからだ。



「ずぅちゃん!」



飲み物を取りに部室へ向かった私の背中に、小さな衝撃。



私のことをずぅちゃんと呼ぶのは、あの子しかいない。



「千陽ちゃん」



和歌 千陽(わか ちはる)。



同じ3年生で、バスケ部に入って仲良くなった子だ。



基本おとなしく、おしとやかな性格だが、バスケではそんな様子を感じさせない。



俊敏な動きは、先生からのお墨付きをもらっているほどだ。