「…うん」



車に乗り込んで、学校を出る。



輝は最後の最後まで見守ってくれていた。



「お母さん、もう話したりできる?」



身を乗り出してお父さんに問う。



「少しフラフラするらしいけど、喋ったりはできるらしいよ」



お父さんの声が、どこか明るい。



車の中にかかる曲が、余計笑顔を誘う。



「ずっと…聞いてなかったよ」



「え?」



赤になった信号。



お父さんは何かを見据えているように、遠い目をして。



「お母さんの声」



このときほど、お父さんがかっこよく見えた日はないだろう。



お父さんはずっと、今も昔も、お母さんを愛している。