私が何かをじっと見つめていたらきっとあなた。

私が何かに耳をすませていたらきっとあなた。

私がイライラしていたらきっとあなた。

私が涙を流していたらきっとあなた。


「540円です。」

私は無言で1060円をトレイの上に出した。

「はい、お釣り500円です。」

私はお釣りと商品を受け取った。

お店を出て、少し袋の中を覗く。

ふふっと、ひとりでに笑い、帰路を急いだ。

「おかえり。」

家の玄関に入ると、見慣れた家族のものではない靴が置かれていた。

「また、しょーちゃん来てるの?」

笑いながらリビングの方に声をかける。

「ここだよー。」

上の階の私の部屋の方から声が聞こえた。

私はとっさに買ってきた本を玄関横の収納にしまった。

駆け足で階段を上る。

「勝手に部屋入らないでって何回も言ってるでしょ!」

少し散らばっていた服を片付けながら言う。

勝手に私の少女漫画を読んでいるのは、

海上翔太。

私が幼稚園に入る前からの幼馴染みで、

年は私より4歳上。

今でも家族ぐるみで仲良くしていて、

勝手に部屋に上がり込まれるのは日常茶飯事だ。

「この漫画、3巻は?」

本棚をいじりながら聞いてくる。

「あ、3巻?無くした。」

笑いながら答える。

_ピロン

しょーちゃんの携帯が鳴る。

「もしもし、、、あぁ、、、分かった、、、明日11時入りな、おけ、ありがと。」

短くそっけないやりとりだ。

「明日も仕事?」

そう聞くと、まあな、と答えながらしょーちゃんは部屋を出て行った。