私はペコリと頭を下げたあと、
少し早歩きでキッチンへ
そして、角に隠れると
「……っ、はあ〜…!」
と、口から思わずため息がこぼれた
「桃華ちゃんどったの?」
「あ、店長〜…」
座り込む私に、店長が駆け寄ってきた
この朝倉店長は、若いのにこのカフェを
一人で経営するかっこいいお兄さん
面白くて、ケーキ作るのが上手くて
私の尊敬する人の一人だった
「あ、店長、ガトーショコラ1つ…」
「?了解〜」
店長は私の事を不思議そうに見ながら
伝票を受け取って、ケーキを作り始めた
…言えない
あのお客さんに一目惚れしました!!
だなんて言えない!!!
私は店長がケーキを作っていると同時に
ティーカップにコーヒーを入れた
「…あ」
ミルクとお砂糖、聞くの忘れちゃった
絶対聞かなきゃいけないって
決まってるのに………
緊張のあまり、逃げてきちゃった!
「…よし」
ドキドキするけど、もう一度、
海斗さんの席に行こう…!!
そして私はド緊張しながら、
再び海斗さんの席へ走った
「失礼します海斗さん」
「?」
「ミルクとお砂糖はどうしましょうか?」
そう尋ねると、海斗さんはまた
顎に手を当てて考えている模様
「んー、じゃあ砂糖だけで」
「かしこまりました!少々お待ち下さいね」
意外、お砂糖入れるんだ……
勝手にブラックと思い込んでた
なんか、可愛いな………
「桃華ちゃんガトーショコラ1つね」
「ありがとうございます!」
私はコーヒーに角砂糖を1つ添えて
ガトーショコラも乗せて運んだ
海斗さんのお口に合うかなあ…?
店長のケーキだから、
合う、はず……だよね?
「お待たせしました!」
「おおー!美味そう!」
海斗さんは目をキラキラさせて言った
「うちの店長のケーキは絶品なんですよ」
「マジ!?いただきます!」
海斗さんは早速ガトーショコラを
一口パクリ、と口に運んだ
ドキンドキン、と鼓動がなぜか早くなる
「ど、どうでしょう?」
「…うまい!」
「!」
「桃華ちゃん、これすげえ美味いな!」
海斗さんは私に向かって満面の笑みで
ケーキの味を褒めてくれた
嬉しい!!
好きになっちゃった人に、
自分のバイト先の味を褒めてもらえた
「よかった、海斗さんのお口に合って」
私が胸に手を当てて、そう微笑むと
なぜか海斗さんはふいっと顔を逸らした
「…っうん、また来ようかな!」
「本当ですか!?お待ちしてますね!」
やったー!
またここで会えるかもしれないってこと?
嬉しい……!
そして海斗さんはコーヒーを飲み干して
「あ〜美味かった」と財布を出した
「あ、お会計ですか?レジどう…ぞ…」
なんか、急に寂しくなってきた
一目惚れなんて無いと思ってた
でも
この胸のドキドキが、物語っている
私は、海斗さんに堕ちてしまったんだと
次いつ会えるかわかんないし、
もしかしたら会えないかもしれない…