軒先にのベンチに座り、アイスキャンディを舐めていると、ラムネの瓶が隣に置かれた。
蒼ちゃんは、ベンチの横に立ったままだ。
「松キャンのアイスは美味しいね」
しゃりっと大きめの欠片を口に含んで、いつの間にか軒先に頭頂部が触れそうなくらい大きくなった、蒼ちゃんを見上げる。
小さかった頃の面影は、少しだけ、不意に細める目元に残っている。
「純が望むなら、いくらでも食わせてやる」
わたしは耳を疑って、目を何度もしばたかせた。風が起こした幻聴かと思った。「い、いくらでも…?」
ラムネの瓶を大きく傾けた蒼ちゃんの喉には、ビー玉みたいな喉仏。
食い入るように見つめると、背後には、まだ夕暮れに染められる前の低くて水色の空が、広がっていて。
「お、大人をからかうのはよくないわ」
当時、あの人と付き合った、不純な理由。
短大生だったわたしは、中学生に、真面目な恋心を抱いていたのだ。それも、今まで弟のように接してきた子に。いけないことだと思った。
忘れられたら楽だと、思った。
「からかってねぇよ」
吐き出すように発した蒼ちゃんは、とても煩わしそうな目で、わたしを見下ろした。