「純、結婚式、行くの?」


加那が心配そうに、正面からわたしの顔を覗き込む。
対してわたしは、セピア色の液体の中を、氷がころころとさまよう様を見つめていた。「…どうしようかな…」


行ったらきっと、いやでも思い出してしまう。あの人のことではなく、あの人と付き合った不純な動機を。
このアイスティーのように、焦げた色をした切ない日々を。


喫茶店を出ると、わたしは夕焼けが広がる高い空を見上げて、「夏がくるんだな…」独り言を呟いた。出会って、18回目の夏。

真っ直ぐに帰宅せずに足が向かう先は、かつて通っていた高校のすぐ近く。わたしの、お母さんの古いお友達が営む。松田冷菓店。


「…蒼ちゃん、こんにちは」


通称、松キャン。
暖簾の奥からひょっこりと顔を出したひとり息子の蒼ちゃんは、“こんにちは”とも、“また来たのか”とも言わずに、「何色?」サンダルを履いて店に出ると、クーラーボックスに手を掛けた。


「ああ、えっと…白。」


薄いヨーグルトのような味がする白は、さっぱりしてて昔からお気に入り。
さっき喫茶店で熱いコーヒーを飲んでいるときから、白の味が、恋しくなっていた。