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お母さんに今日のことを話して、夕食を食べてお風呂に入ってから宿題をやってすぐに寝た。

そのままふと目を覚ますと、またあの懐かしい白い空間へやって来た。

その景色を見るだけで、なんだか安心できて、半年経ったんだと思えた。

「久しぶりだね、美澄さん。」

ニコリと微笑む美少年に、私もニコリと笑いかけた。

「それから、お疲れ様。」

天使様はそう言って、いつかのカフェオレを投げつけてきた。

缶からペットボトルにレベルアップしているのに関しては、あえて突っ込まないでおこう。

それから天使様は私の隣へ座ると、私に空色の手紙を渡してきた。

素直に受け取り読もうとするけど、後にしてと言われて、いつも通り報告からした。

このはとのこと、陽翔くんのこと、静葉ちゃんとのこと、いろいろ報告することがあってか、かなり語っていた。

天使様はその長い長い私の話を、文句の1つも言わずに相槌を打ちながら聞いてくれた。

「…良かったね。」

全部話し終わって一息ついたところで、天使様はそう言ってふふっと笑った。

私はその言葉に、自慢げに頷いた。

天使様はそっかと言ってどこか遠くを見つめると、急に立ち上がって服の汚れをパッパッと払う。

「さてと、僕の役目も終わったし、そろそろ失礼しようかな。」

ニコッと私に笑いかけて、そのまま私に背を向ける。

きっと、天使様にはもう会えないだろう。

そう分かった私は、白くて綺麗な翼の生えた背中に向かって、

「ありがとう。」

それだけ伝えた。

天使様は一度振り返ると、ニコッと笑い頷いて、そのまま私に手を振った。

ぐらりと視界がぐらついて、目の前が真っ暗になる。

ふと目を覚ますといつもの見慣れた天井があって、手には空色の手紙が握られていて、側の机の上にはペットボトルのカフェオレが置いてあった。

起き上がってから、その手紙を開いて読み始める。

『美澄さんへ

半年間お疲れ様でした。

これからもこのはさんと仲良く、学校生活を楽しんでくださいね。

そうしていつか、また会いましょう。

空』

一文字一文字丁寧に書かれた手紙を読んで、私はニコッと笑った。

「美澄、起きてる?ご飯できたわよ。」

ノックの後に扉の前から聞こえてきた声に、思わず慌てて時計を見ると、もうすでに朝ごはんを食べる時間帯で、

「はーい、今行く!」

と返事をした後、急いで着替えて準備をしてからリビングへと向かった。

いつもと変わらぬ朝に、いつもと変わらず食事を取ってから、カフェオレを一口飲んでから準備をする。

ほろ苦い味が口いっぱいに広がるのを感じながらせっせと準備をして、部屋を出ようとしてハッとした。

そうして私は引き出しからあの手紙を取り出す。

必要なくなってしまった手紙を、一枚一枚丁寧に破って破って、最後に一枚、天使様への手紙だけは机の上に置いておく。

『Dear 天使の空様』

そう書かれた面を上にして、荷物を持ってそっと部屋を出て、そのまま家を出て学校に向かう。

登校する際にはこのはに昨日のことを心配され、学校では陽翔くんと、話が伝わってたのか先生からも心配された。

大丈夫だと返してから、またみんなでたわいない会話を繰り広げる。

それだけのことにも、幸せを感じて、頬がほころぶ。

それからというもの、このはとはれっきとした“親友”になれた。

ただの口約束なんかじゃなくて、ちゃんとした親友という関係。

ある程度は察してくれるし、時々喧嘩はするけれど、そのうちに和解しあえる。

私が寂しい時や悲しい時は支えてくれるし、このはが寂しい時や悲しい時は私が支えるし、楽しさや喜びは共有しあう。

そんな、距離を詰めすぎず開け過ぎない程よい親友関係が続いている。

陽翔くんとも相変わらずで、最近ではこのはと一緒に陽翔くんと宮野の部活の試合に顔出したりもするし、ダブルデートをしたり、休みに2人きりででかけたり、勉強をしたりして充実している。

そんな楽しい日々が1ヶ月ほど続いたある日のことだった。

「幸せそうで何より。」

ふふっという笑い声とともに聞こえてきた、忘れかけていた声に振り向いた。

それは夕方の学校の下駄箱の前で、靴を履き直していた時だった。

どこかで翼のはためく音がする。

バサッと風を仰ぐ音がする。

私は意味もなく何もない空を見上げると、ニコリと微笑みかけた。

「幸せ。」

その一言は風にのまれて、空へと溶けていく感じがした。

いつもいつも一緒にいるわけじゃなくて、でもいたい時に一緒にいてくれて。

困った時は助けてくれるし、泣いてる時は肩を貸してくれて、誤解したり喧嘩したりもあるけれど、ちゃんと誤解はすぐ解くし、喧嘩したっていつかは分かりあえる。

何より明日もその人に笑っていてほしいと思える。

その人の笑顔を見ると幸せになれる。

親友とか、本物の友達とか、人それぞれ基準は違うけれど、いずれにせよ無理になろうとするものではなくて。

少なくとも私の基準は、“信頼できる、信頼される”ことだった。

親友となったらもうそんな基準なんて、どうでもよくなっちゃうけれど。

親友のこのはとたわいない会話をしながら家へと帰る。

そうしてそのうちに家に着く。

重たい荷物に嘆きながら部屋に入る。

机の隅に追いやられていた天使様宛の手紙はどこかへ消えていて、代わりに一枚のメモ用紙だけが残されていた。


『お幸せに』

空色のメモに書かれた文字に、私はふふっと微笑んだ。