落ち着いたところで、警官の人が膝に持ち合わせの湿布を貼ってくれて、頭を下げて謝ってくれた。

なんで警官の人が謝るのか分かんなかったけど、とりあえず大丈夫ですとだけ言っておいた。

「美澄大丈夫?」

このはもすっかり落ち着いたようで、そう言って私の体を見回した。

私が大丈夫と言うと、ホッとした様子でその場に座り込んだ。

周りの人達も私が無事なのを見届け安心したのか、帰っていく。

そんな中、誰かが2人分の荷物を抱えて走ってくるのが見えた。

「…やっと追いついた…。」

ゼェゼェと息を切らして苦しそうに酸素を求めながら、このはに荷物を渡すのは、陽翔くんだった。

このはは陽翔くんに遅いと文句を言う。

そんなこのはに陽翔くん呆れ顔でお前なぁと文句を言い返した。

「お前が荷物も置いて美澄さん追いかけるから、俺が教室の鍵をかけて返して、こんな大荷物で走って追いかけてきたんだぞ。」

そう言うと陽翔くんは一旦このはを睨み付けてから、私の体を上から下まで見て湿布の貼ってある膝を見て驚いていた。

「え、美澄さん怪我したの?!

大丈夫?痛くない?」

本気で心配してくれてるのか、どうしようかとオロオロする陽翔くんが可愛くて思わずクスッと笑ってしまう。

パッと陽翔くんをもう一度見ると、陽翔くんはこのはをお前かと言いたげに睨んでいた。

このはは陽翔くんに睨まれオドオドしながらも必死に首を振っている。

私は陽翔くんに先ほどあったことを話した。

陽翔くんは頷いて相槌を打ちながら聞いてくれて、話し終わった頃には手で拳を作って握り締めていた。

しかしふぅと一息ついて落ち着くと、頭をポリポリとかいてため息をついた。

「…美澄さん怪我させた奴殴りたいところだけど、とにかく無事なのは良かった。」

と言って微笑んだ。

「あ、そういえば、なんで2人は教室で話してたの?」

雰囲気が和んだところにすかさず聞きたかったことをズバッと聞いた。

陽翔くんはその質問に一瞬驚くと、思い出しながら少し照れた。

「いやー、木村が美澄さんのこと待ってたからさ、ちょうどいい機会だと思って、美澄さんについて語ってたんだよね…。」

そこまで言うと、恥ずかしいと言いたげに下を向いて頬を染めた。

このははそうそうと言ってその時のことを思い出してかふふっと笑った。

そうして少し悲しそうな顔をした。

「でもさ、美澄ってば、来たと思ったらすぐ走ってどっか行っちゃうんだもん。

絶対誤解したよなと思って、誤解したままじゃ嫌だったから追っかけてきたんだけど、追ってきて正解だった。」

そう言ってこのははまた私を強く抱きしめた。

「誤解したままじゃ、嫌だったの?」

変な質問かもしれないけれど、誤解を誤解のまま放って置きたくないと思ってくれたことが、どんな理由であれ嬉しくて、つい聞いてしまった。

このははもちろんだよと言って私から離れると、じっと私を見つめた。

「美澄の誤解は早く解きたかったし、明日も美澄に笑っててほしかったから。」

“笑っててほしかった”という言葉に、心臓が大きく脈打った。

その気遣いが嬉しくて、笑っててほしいと思われてることが嬉しくて、ニコリと笑うこのはの笑顔につられて私も笑う。

陽翔くんもその通りだと大きく頷いていて、そうしてニコッと笑いかけてきた。

「あの、大丈夫ですか?家まで送って行きましょうか?」

警官の人がそう言ってくれたけれど、私はこのはと陽翔くんと互いに顔を見合わせた後、

「大丈夫です。2人に送ってもらうので。」

と言って断った。

また帰り際また警官の人に謝られたけど、大丈夫ですの一点張りで、平気だと笑いかけてその場を去った。

「っていうか、俺も送ってくの?!

俺の家ここ曲がった先なんだけど…、まあいいけど…。」

ぶつぶつと文句を言いながらも、喜んでついてくる陽翔くんを見て、私とこのはは2人でクスクスと笑っていた。

3人並んでいろんな話をしながら帰る。

それだけのことに、私はなんだか幸せを感じた。

普通の日常が、とっても幸せだった。