足と同じくらい、いやそれ以上に重い気持ちを引きずっていた。

周りの景色がだんだんと色褪せていく。

それと同時に、このはに待っててもらったのに勝手に帰ってきてしまったことに対して申し訳なくなって。

やりきれない思いを抱えたまま、やっぱり戻ろうと思って学校の方を向いた。

それで2人で楽しそうに帰ってきてたら、それはそれで、陽翔くんのこと諦めればいい話。

このはと宮野が付き合ってることをすっかり忘れていた私は、そんなことを考えながら、渡りきった横断歩道をもう一度反対側へ渡しだした。

その横断歩道には信号がついていて、LEDの信号機は確かに青緑色が光っていた。

そのはずなのに。

結構な大通りだったそこをもうすぐ渡り切ると思っていたその時、どこか遠くの方からクラクションが聞こえてきて。

思わず信号機を見るけどまだまだ青緑。

クラクションのした方を見ると、遠くの方から車がやって来るのが見えて、同時にパトカーのサイレンの音も聞こえてきた。

暴走車とかかな、警察から逃げてるのかな、無謀なことをする人もいるものだななんて呑気に考えてしまう。

それどころじゃないのは分かっていた。

このままでは轢かれてしまうと分かってはいた。

けれど体が動かなくて。

ふと半年間のことを思い返してみて気付いた。

ああ、そういえば、

『半年後、君、死ぬから!』

あの時も、

『あと約1ヶ月間は会えなくなるけど、頑張って。』

あの時も天使様は、キッチリ半年後にとは言わなかったし、その日付も教えてはくれなかった。

私が勝手にキッチリ1ヶ月後をはかって、その時までと計画していただけで、いつ死ぬなんて分かっちゃいなくて、自分で決めた日を過ぎたからって安心していた。

車が近付いてくる。

それはとてもゆっくりで、ドラマだからゆっくりに見せてるだけだと思ったけど、実際もゆっくりに見えるんだなと、感心してしまう。

私は無意味に、手の届きそうなところにある向こう岸に手を伸ばした。

鳴り響くクラクションの音、サイレンの音、周りの人の叫び声を聞き届けて、覚悟を決めて目をつむった。

…このはと誤解解きたかったな、陽翔くんともどこか出かけたかったな。

まだまだ全然やりたいことがあったのにと、フッと笑った。

その、直後だった。

「美澄!!」

私の伸ばされた手は、誰かに掴まれグイッと引き寄せられた。

力強く引き寄せられ、バランスを崩して歩道の方へ思い切り倒れ込みそうになった。

背中のすぐ後ろを、冷たい風が通り抜けた。

私が地に手をついた頃に、パトカーが1台背後を通り過ぎて、1台は交差点で止まった。

何があったのか理解するのに時間がかかった。

あの声は誰のものだったのかと考えて、すぐに分かった。

私を引き寄せたのは、私を助けてくれたのは、

「美澄、良かった…。本当に良かった…。」

そう言い私を抱きしめてくれる、このはだった。

たまらず涙が零れてきて、私もこのはを抱きしめながら泣きじゃくった。

死ぬかと思った。

死を覚悟していた。

けれど、私は死んじゃいなくって、確かにこうして生きていて、それに安心して嬉しくて、私は力いっぱいこのはを抱きしめた。

「おい君、大丈夫かい?」

パトカーからおりてきた警官に声をかけられて頷いた。

一旦このはから離れてみると、思い切り引き寄せられたからか、膝を打っていて、ズキズキと痛んだ。

手も赤く腫れていて、ヒリヒリとした痛みが走っている。

けれどその痛みは私に物語っていた。

〝生きている〟と。

その痛みに私はまた涙した。

もう周りの景色がスローモーションで見えることもなくて、それは私に安心感を与えてくれた。