「また居残りかな。」
手にある数学の小テストを眺めながらそう呟く。
分からなかったところは居残って先生に教えてもらう主義の私は、その出来の悪いテストを見て絶望した。
「んー、私よりかは点数いいけど?」
私のテストを覗き込みながらこのはは私にそう言った。
このはも同じテストをやったらしく、本人曰くこのはより私の方が点数が良いらしい。
体育会も終わり一息ついたため油断してしまったのだろうなと2人で反省した。
10月の中頃、中間テストを次の週に控え、学校中が次のイベントである合唱コンクールに向けて合唱一色に染まるこの頃の小テストはキツい。
そして、合唱コンクールというイベントがこの学校にあることをつい最近知ったことが何より恥ずかしい。
確かに音楽の時間にとある歌をよく歌うなとか思ったりはしたけど、どうしてかなんて気にならなかったから放っておいた。
それが実は合唱コンクールのクラス曲だったなんて、今更すぎて笑えない。
「それにしても、合唱コン楽しみ。」
ふふっと楽しそうな笑みを浮かべて、このははぐっと気合を入れる。
このははクラス曲での指揮者らしく、合唱コンには力を入れているらしい。
クラスでイジメられてるのに指揮者になれたことに疑問をもったが、誰が指揮をやるか選ぶのは先生だと聞いて納得した。
歌の練習も、みんな先生の前ではいい子ぶるためになんとか上手くやっていけてるそうで。
このははこれを期にイジメをなくそうと頑張っている。
一方私はというと、“あの事”を気にはしてないつもりでもついつい気にしてしまい、物事に集中できない。
歌もなかなか気持ちが入らない。
このはの隣にいると幸せで、それは確かなんだけれど、不安もあった。
この幸せが、消えてしまう気がして。
でも、消したくなくて。
クラスとの関わりを深めるごとに、なんだか胸が締め付けられた。
…私、死ぬのかな。
必ず死ぬわけではないとは言っても、不安は募るばかりで。
このはが私を親友だと思っていてくれるとは信じているけど、心の何処かで疑う私がいた。
日に日に不安が膨らみ重くなる気持ちと沈む私の気持ちに、このはが気付かないはずがなかった。
「…美澄、元気ない?」
ある日ふと聞かれて、答えるのに戸惑った。
結局嘘をつきたくはなくて、素直にコクっと頷く。
するとこのはは優しく微笑んで、
「なんかあったの?話くらいなら聞くよ?」
そう言ってくれた。
“どうかした?!”と過剰に反応されるよりも、こうして笑いかけてもらえる方がずっとずっと良い。
なんだか落ち着いて、不安で固まった心がほぐれていく。
でも、何かあったわけじゃないし、話をしたって馬鹿にされるだけだし、第一話していいことではない気がするし。
だけれど話さずにはいられなくて、
「もし数日後に自分が死ぬって分かったら、このはなら何をする?」
とよく分からない質問をしてしまった。
こんなこと、聞きたいわけじゃない。
だけどこのはは少し考えた後、
「できる範囲でやりたいことやる。」
とニコッと笑って答えてくれた。
「なんで?」
続けてそう尋ねるこのはだったが、私が「別に」と誤魔化すと、ふーんと言って話を変えた。
あえて深くは追求してこない優しさに、思わず頬が緩んだ。
やりたいこと、できる範囲で私もやろう。
念のためだと自分に言い聞かせ、そう決意した。