私はこくんと一口ジュースを飲んでからすっとこのはを見た。
「そういうこのはこそ、どうなの?」
私の問いかけに大きく反応するこのは。
ああ、これは好きな人いるんだなとニヤリと笑えば、このはは恥ずかしそうに頬を染めた。
「私は…、その、ち、智明…とか…。」
言葉を一生懸命に紡ぎながら答えようとするこのはが可愛くって、
「智明がどうしたの?」
と分かっててわざわざ聞いてやる。
聞かなくともこのはの好きな人が宮野であるということは分かってはいる。
このはは私が分かってて聞いてきているのに気付いたのか、真っ赤な頬をぷくっと膨らますと、
「み、美澄の方から言ってよね!」
と私を思いっきり指差した。
いつの間にかちゃん付けから呼び捨てに変わってて少し照れ臭い。
ぷいっとそっぽを向いて拗ねるこのはを見て私はクスクスと笑いながら、
「私は陽翔くんかな。
何か席が近いこと多くて仲良くなって、そのうちに好きになったんだよね。」
と答えた。
好きになった過程まで軽く説明しながら答えた後、このはは?と言わんばかりにこのはを見つめた。
このはは視線を逸らして、言わないぞと口を固く結ぶも、私の期待の視線に耐えかねてか、諦めたように話し出した。
「こっちに転校してきて右も左も分からなかった時、隣の家だった智明にいろいろお世話になってね。
まあ、いきさつは美澄と変わんないかな…。」
懐かしそうに、どこか嬉しそうに語るこのはの表情は、まさに恋する乙女で可愛らしかった。
えへへと照れ笑いするこのはを見て、私もこんな女の子らしかったらななんて思う。
「お互い頑張ろうね。」
私がそう言い笑いかけると、このはもニコッと笑って思い切り頷いた。
それからいろんな話をした。
とはいえほとんどこのはの惚気話だったけれど、たまにはこんなのも悪くない。
あとは、体育会についても話をした。
例えばお昼ご飯のことだとか、自分の出る種目以外の時はどうしてればいいのかとか。
いろいろ説明をしてもらったあと、お昼ご飯を一緒に食べる約束をしておいた。
そして、
「そういえば静葉ちゃんとはどうなったの?」
もちろん静葉ちゃんとのことについても話した。
「謝ってくれたし、一応は許したけど、すぐに仲直りなんて嫌だから、また少しずつ元通りにしていこうねって約束した。」
ただ許しただけの私とは違い大人びたこのはの返答に感心しつつ、“少しずつ”という言葉に少し悲しくなった。
ついつい1ヶ月後にはどのくらい元通りになっているのかと考えてしまう。
ちゃんと元通り仲直りできるまで見届けたいななんて考えながら、話を続けた。
「元通り…なれるといいね。」
「なれるといいというか、なるんだよ。」
感傷に浸る私の言葉に、このはは若干ドヤ顔で返してきた。
その台詞にムッとするも、思わず笑みが零れる。
上辺だけの友情関係で十分だと思ってた去年の私からは考えられない、少しの無理もない心からの笑み。
それは私に、安らぎを与えてくれて、上辺じゃなくて、こうやって信頼できて隠し事なく話せる友達がいるのはなんだか幸せだと思わせてくれた。
信頼できる友達、本物の友達がいる幸せと、その友達の必要性を感じさせてくれた。
「ねえ、このはにとって、私ってどのくらい大きな存在?」
普通変な質問だなと思うだろうけど、つい流れで聞いてしまった。
このはも初めは不思議そうな顔をしたけれど、すぐに笑顔になって、
「もちろん、友達の中で1番大切な親友的存在だよ。」
そう言ってくれた。
優しい笑顔とその言葉で心が満たされた。
安心感を覚えた。
“親友”という言葉が頭の中で何度もこだまして、そのたびに風が頬を撫でる。
嬉しくて嬉しくて、私は思い切り笑ったあと、
「ありがとう。」
と伝えた。
このはは少し不思議そうに首を傾げた後、私と同じように思いきり笑って私をそっと抱きしめてくれた。