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ふと目が覚めると広がる白い空間。
それを見ただけで、夢の中だと気付き起き上がる。
「久しぶりだね、美澄さん。」
ニコリと笑いかける少年は間違いなく天使様。
確かに天使様が会いに来るのは久しぶりな気がする。
今まで何しとったんだと言わんばかりに見てやると、天使様は少し困った笑みを浮かべた。
「僕にもいろいろ仕事があるんだよ。」
頭をかきながら、ヘラっと笑ってそう言った。
天使様はそう言うと、ひょいと何か缶ジュースを投げつけてきた。
それは私の好きな温かいカフェオレ。
まだ少し時期が早い気もするが、夢の中のことだし突っ込まないでおく。
「それで、どう?解決した?」
天使様はそっと私の隣に腰掛けると、ニコリと笑いかけてきた。
「解決はした、のかな…。
まだ分かんないけど、このはとはより一層仲良くなれた。」
私はそう言い天使様にニコリと笑いかけた。
そんな私を見て、天使様はほのかな笑みを浮かべて、私の話に耳を傾けた。
私は前に天使様に会ってから最近までの話を覚えている限り話した。
天使様は私の話を聞きながら、ニコニコと笑いながら頷き相槌を打っていた。
「手を繋ぎながら下校したんですか。
仲良さそうでなによりです。」
ふふっと笑いながら、どこか遠くを見つめてそう言う天使様の横顔は、どこか儚げで綺麗だった。
そうして私の方を見ると、ぐっと唇を噛み締めた。
「1つ、伝えておかないといけないことが。」
言いにくそうにそう言う天使様を、私は早く言えと言わんばかりに見た。
「もうすぐ5ヶ月経つの、気付いてた?」
天使様にそう言われてふと思い返す。
天使様が初めて夢に出てきたのは5月の初め頃だったか。
そして今は9月の終わり。
確かにそろそろ、5ヶ月が経ってしまう。
「…あと、1ヶ月だよ。」
天使様は凛とした重い声で、しっかりと私の目を見て、その右手の人差し指で私を指差した。
あと1ヶ月、そんなことは分かりきってはいる。
あと1ヶ月の間にどれだけこのはと仲良くできるか、どれだけこのはに信頼してもらえるか、これからの私の行動次第で私の生死が決まる。
けれど私は、仲良くなろうと信頼されようと必死にはなりたくなくて、必死になる気もなくて、
「うん、まあ、自然に任せるよ。
きっと、大丈夫だから。」
と言って、天使様に笑いかけた。
そう言う私の手は、言葉とは裏腹に震えていた。
特に行動を起こす気はないけれど、やっぱり少しは怖いんだ。
このまま過ごしてて、1ヶ月後に死んでしまったらと思うと怖い。
天使様はそんな私の心境を察してか、そっと震える私の手を優しく握ると、
「それでいいよ。
あと約1ヶ月間は会えなくなるけど、頑張って。」
そう言って優しく微笑んだ。
“それでいい”という天使様の言葉に安心感を覚えて、緊張と不安が少しだけ和らいで笑みが零れる。
「じゃあ、僕は仕事があるのでこの辺で。」
天使様はそう言い立ち上がる。
パンパンと服の汚れを払うと、自分の持っていたカフェオレを投げてきた。
自分のもまだ飲み干してないのに何がしたいのかと思いつつも、その温かさに頬が緩む。
「仕事って、何やってるの?」
ふと尋ねてみた質問に天使様はニヤリと笑うと、人差し指を口元にあてて、
「内緒。」
と言って微笑んだ。
その天使様の意地悪な笑みを最後に、私は目を閉じる。
もう一度目を開ければいつものように家のベッドで寝ていた。
そして、枕元には先ほど天使様のくれたカフェオレと、可愛い丸字で書かれた手紙が置いてあった。
おそらく天使様からだろう。
私は起き上がり手紙を手に取り、そっと開いて読むことにした。