しばらく経って、ガラリと扉が開いたかと思うと、静葉ちゃんたちが教室に入ってきた。
私だけがいることを確認して、静葉ちゃんは扉を閉めた。
葵ちゃんは私から視線を逸らし、目のやり場に困っている様子。
葵ちゃんは、悪い気はしてるけど止められない系の子だからななんて考えて梨乃ちゃんの方を見た。
梨乃ちゃんは葵ちゃんとは逆に、私と目が合うとニコリと笑いかけてきた。
怪しげな笑みに体が強張る。
そして静葉ちゃんはというと、やや緊張気味で、1つ深呼吸をしていた。
そうして近付いてきてグッと唇を噛み締めた。
「ねぇ、アイツが、そんなに大事?」
拳を握り締めてゆっくりと尋ねる静葉ちゃん。
私は思わず、え?と聞き返した。
最近静葉ちゃんと絡むことが全くなくなって、このはとはメールしたりしていたからだろうか。
静葉ちゃんは真剣な目で私を見つめた。
「大事というか、イジメはダメだから。」
私がそう言うと、静葉ちゃんはすっと下を向いた。
イジメが正しくないことだってことには気付いているのか、バツの悪そうな顔をする。
「でも、いつも家族や兄弟の話を避けて、向こうも気付いてくれてたと思ってたのに。
このはってば、妹を見習えって言うんだよ?」
静葉ちゃんはパッと顔を上げて悔しそうに顔を歪めた。
静葉ちゃんは、だって、だってと必死に言葉を紡ごうとはしているものの、話が続くことはなかった。
今にも泣き出しそうな静葉ちゃんに、なるべく優しい声で、
「そういうのはちゃんと言わないと、静葉ちゃんのこと分かるわけないじゃん。」
と遠慮気味に言った。
しかし静葉ちゃんは私の話を聞いてくれる様子はなく、
「なんで、分かってくれないの!」
と声をあげる。
どうするべきか分からなくなりパッと静葉ちゃんの後ろを見るも、梨乃ちゃんは見ているだけで何もしないし、葵ちゃんはそこにはいなかった。
突如静葉ちゃんが一歩近寄ってきて、その手を思い切り上に振り上げた。
殴られると分かりはしても、避けるにも机が邪魔ですぐには避けられず、一歩近付かれた分だけ後ろに下がり反射的に目を瞑る。
バチンっと乾いた音が教室内に響く。
しかしいつまで経っても痛みを感じず、恐る恐る目を開く。
目の前にはこのはがいた。
「…ったぁ…。」
よほど力がこもっていたのだろう。
このはは痛そうに叩かれた左頬をおさえていた。
後ろの扉の方を見ると、葵ちゃんが息をきらして立っていた。
様子からして、葵ちゃんが呼んできたのだろう。
梨乃ちゃんも静葉ちゃんもこのはが来たことに驚いて目を見開いていた。
「このは?」
静葉ちゃんは怒りに満ちた声で名を呼びこのはを睨む。
「静葉ちゃん、ごめん…。
家のこと知らなかったなんて言い訳にしか聞こえないかもしれないけど、その、ごめんね。」
このはは静葉ちゃんの方を見ると、深々と頭を下げた。
静葉ちゃんは一瞬謝ってくれたことに対してか驚いた顔をして、すぐに目を逸らし不機嫌そうな顔をした。
「そんなの、今更だし…。」
ボソッと呟いた。
静葉ちゃんはこのはを叩いた右手にちらりと目をやり、ギュッと握りしめた。
「こんなのおかしいよ。」
しっかりと静葉ちゃんを見て放たれた言葉に静葉ちゃんは満足いかないのか、
より強く拳を握り、私とこのはを見据える。
「なんでおかしいの?
気付いてくれなかったこのはが悪い!」
そうして静葉ちゃんは、感情任せに叫んだ。
涙目で訴えかける静葉ちゃん。
このはは悲しそうに下を向いた。