葵ちゃんとお話をした、翌日のことだった。

登校中にこのはに昨日のことを話そうかどうか迷いながらも、葵ちゃんのお願いを受け持った以上伝えなければと、要約して話すことにした。

イジメの本当の原因は妹の話をしたからということ、静葉ちゃんの家庭のこと、自分の気持ちを分かってもらいたかったこと。

登校中に話せるだけ話した。

このはは心当たりがあるのか、時折表情を曇らしていた。

話し終わった頃にはこのはは何か考え込んでいて、少し寂しげだった。

「…なんか、静葉ちゃんに申し訳ないことしたみたい。」

このははそう呟くと、深いため息をついた。

申し訳ないことというのは、妹さんを褒めたことなどだろう。

そういえば、と思い出しながら、ぽそりぽそりと呟いていた。

途切れ途切れに聞こえる話を繋げると、どうやらこのはは葵ちゃんが言ったとおり、静葉ちゃんがイジメてきたのは性格を指摘したことが原因だと思っていたらしい。

家庭のことも初めて聞いたものの、思い当たる節があるようで、静葉ちゃんがそれらしい言動をしたことがあるのだろう。

例えば家族の話を避けるだとか、兄弟の話に敏感に反応するだとか。

何かしら、静葉ちゃんはサインを出していたのだろう。

でもこのははきっと、気付かないどころか、気付こうともしなかったのだろう。

するとこのははパッとひらめいたように顔を上げた。

「でも…、」

少しためらってから、ふと息を吐いて吸って。

「でも、私だけが悪いわけじゃないし、今の状況、私から謝るべきじゃないよね。」

このはは私に同意を求めるように首を傾げた。

このはが先に謝るべきではないのかは分からないけど、確かにこのはだけが悪いわけではない。

確かに、今の状況、このはから謝れば静葉ちゃんは強く出ると思うけど、

逆にこのはから何か行動を起こさない限り静葉ちゃんも何もしないとも思う。

だから、

「でも、このはから話し合いの場とか設けないと、このまま関係が悪化するだけだと思うんだけど…。」

少し遠慮気味に、意見を述べた。

このははそれもそうだねと頷くと、どうするべきかと1人考え始めた。

気まずくない沈黙が流れたまま学校につき、軽く一言声かけて別れて教室に入る。

席について準備をして、いつも通りの1日が始まる、はずだった。

「美澄ちゃん、ちょっと放課後話せる?」

静葉ちゃんが突然話しかけてきた。

いきなりだったためにか、もしくは静葉ちゃんが何かの決意をしたような顔をしていたからか、驚いてすぐには返事をかえせなかった。

少しして、いいよねと静葉ちゃんが迫ってきた。

私は、いつもとは違う切迫感のある静葉ちゃんの声色に驚きながらも、コクンと頷いた。

静葉ちゃんは少しだけホッとした表情をしてからそそくさと去っていった。

こっそり目で追うと、静葉ちゃんは安心した表情をしながら梨乃ちゃんや葵ちゃんと話していた。

なんでそんな安心しているのかよく分からなくて、窓の方を向いて少しだけ首を傾げた。

「美澄さん、木村と仲良くなったの?」

不意に声をかけられ声がした方を向くと、前の席に陽翔くんが座ってこちらを向いていた。

さっきまでいなかったから、今来たばかりのはずなのに、私とこのはが一緒に登校してきたところを見てないはずなのに、

どうしてこのはと仲良いと思ったのかと首を傾げた。

陽翔くんはそれを察したのか、あぁと思い出したようにつぶやいた。

「ほら、あそこで本読んでるやついるでしょ?

そいつ木村と家が近くて仲良いらしくて、

珍しい組み合わせだって言ってたからさ。」

陽翔くんに言われてちらりと見ると、何かの本を読んでいる男子が誰かと話していた。

本を読んでいるからといってメガネの知的な感じじゃくて、陽翔くんみたいにスポーツ系の男子。

名前は確か、宮野智明だ。