初めて目撃した静葉ちゃんがイジメをしている現場に少し戸惑うも、堂々と教室の中に入っていき、静葉ちゃんの手を掴んだ。
「離してあげなよ。」
私の言葉に静葉ちゃんはムッとしたけど、パッと手を離すと、2人に合図をして去っていった。
葵ちゃんは何か言いたげだったけど、梨乃ちゃんによって無理やり連れて行かれた。
「このは、何で教室で待ってなかったの?」
「帰りの会の直後に、萌香ちゃんに頼まれて職員室にノート運んだ後静葉ちゃんに捕まって…。」
ごめんね、とこのはの肩をすくめた。
私は大丈夫と答えて乱れた机を並べ直した。
そうして戸締まりをしてから、このはと一緒に教室を出て鍵をしめ、職員室へ鍵を返しにいった。
このははどうやら私や静葉ちゃんと同じ方面らしい。
しかも家はすぐ近くだった。
このはの家で少しお話してから別れ、家へ帰った。
とりあえず明日から一緒に登校する約束をしておいた。
それからというもの、静葉ちゃんとはより一層気まずくなり、放課後はこのはと逃げるようにそそくさと帰っていた。
そんな日が1週間ほど続いたある日のことだった。
「ねえ、美澄ちゃん、ちょっといいかな?」
葵ちゃんに呼び出された。
昼放課に話す約束をして、とりあえず他の放課はいつも通り過ごした。
昼放課になって、こっそり教室を抜け出して廊下で葵ちゃんと集合。
その後場所を移動することにした。
このはと話をした職員室近くの人気の少ない廊下まで来てから、何の用なのか葵ちゃんに尋ねた。
「あ、それなんだけど、あの、このはを助けてくれてありがとうって…。」
いざ言うとなると言いにくいのか、モジモジとして言葉を濁す。
なんで葵ちゃんがお礼を言うのかは分からないけど、恐らくイジメが嫌になったかやんかだろう。
だけど止めれなくて、他の誰かが止めてくれたからお礼を言う。
「別に、私は自分が正しいと思ったことしただけだし…。」
平然とそう答える私に、葵ちゃんはすごいねと笑いかけると、突如顔の前で手を合わせた。
「このはに伝えてほしいことあるんだけど、お願いできる?」
葵ちゃんは必死な様子で私にお願いをしてくる。
さすがに断りにくかった私は、いいよと返事をした。
私が了承したことに葵ちゃんは嬉しそうな笑みを浮かべると、話を始めた。
「このはに、静葉の家庭のこと話してほしいの。
このはは、静葉が自分をいじめるようになった原因が、性格を指摘したからだと思ってると思うんだけど違うってこと。
静葉の両親、静葉のこと甘やかしたわりには、わがままになったのはお前のせいだって言い合いしてて、ついには妹の面倒ばっか見て静葉には見向きもしなくなったの。
それで静葉は妹のこと敵視してて、
それなのにこのはは妹を褒めた。
事情を知らなかったから仕方ないことなんだけど、「妹さんみたいに」って言ったのが気に入らなかったんだと思うよ。
そっから無視するようになって。
しばらくして、「このはも私と同じ気持ち味わえば、きっと分かってくれる」って言い出したかと思えばこのはをイジメ出して。
静葉、小学生の頃嫌がらせ受けたんだって。
ただ、自分の気持ちを知ってほしかっただけで、口先では嫌いって言ってるけど、本当はこのはのことも、もちろん美澄ちゃんのことも大好きなんだよ。
伝え方は間違ってるけど、自分の気持ち知ってほしかっただけなの。」
長々と話を終えた葵ちゃんは、そっと下を向いた。
このはと静葉ちゃんの間に何があったかは知りたかった。
そして、葵ちゃんが教えてくれたことで、静葉ちゃんが一方的に悪いわけでもないことが分かった。
話の中に、このはに伝えるべきことがいくつか混じっていて、私は頭の中で整理していく。
本当に静葉ちゃんがそう思っているのかは分からないけど、半分くらいは真実だろう。
葵ちゃんが静葉ちゃんの前で妹の話は禁句だと言った意味も、よく分かった。
子供の性格は家庭環境が大きく影響するわけで、一概に静葉ちゃんだけが悪いとは言えない。
イジメをするのは悪いことだけど、静葉ちゃんの気持ちも、分からなくはなかった。
「わかった、伝えとくね。」
私はそれだけ言って、葵ちゃんの手を取り教室に戻ることにした。
葵ちゃんは私の手を拒むことなく、握り返してくれた。
葵ちゃんから話を聞いて、少しずつでいいから、どうにかして2人の関係を修復させたくなった。
今度は梨乃ちゃんやこのはにでも話を聞こうか。