このはのいる教室前でこのはを呼ぼうとすると、私に気付いたこのはがかけてきて私の手を引いた。
妙に引っかかる先ほどの教室の空気。
このはを囲んでいた女子のグループに、クラスのみんなは机を端によせて、まるで見世物を見ているようだった。
まさかクラスでもイジメられているのかと疑問が浮かで、あとで聞いてみることにした。
このはに手を引かれ抵抗せずついていくと、ついたのは1階の職員室近く、人通りの少ない場所だった。
このははいきなり立ち止まると、こちらに振り返らずしばらく下を向いていた。
「このは?」
声をかけると、このははパッと振り向いた。
そうして私はハッとした。
このはは静かに涙を流していたのだ。
グッと下唇を噛んで、このははゆっくりと話し始めた。
どうやら、夏休みが明けてから、クラスの女子を牛耳っている子、萌香の好きな人と席が隣になったらしい。
それでその萌香の好きな人が話しかけてきてくれてから話すようになって話していたら、目をつけられたようで無視されるようになったらしく、元々クラスに特別仲が良い人がいなかったこのはは、完全に孤立してしまったよう。
しかもその空気が男子にも伝わって、みんながこのはで遊ぶんだとか。
その上、萌香の好きな人はというと、みんなと同じようにこのはで遊んでいるそう。
そして何より、夏休み明けてから、静葉ちゃんによるイジメが再開していたらしい。
私には言うなと言われてて言えなかったとこのはは言う。
私はこのはの話を聞いて、そっかと呟く。
最近会わなかったうちにそんなことがあったのか。
このははそっと私の手を取ると、
「美澄ちゃん、お願い、助けて…。」
と掠れた声でそう言った。
声色からイジメの辛さが感じられた。
いつもなら、他人にはあまり干渉しないし、一方の話だけで行動を起こすことはしないのだけれど、そんなわけにもいかない気がした。
「いいよ、何すればいい?」
私が優しくそう言うと、このははパッと顔をあげて、「いいの?」と確認をする。
私が頷いたのを見てこのははよかったと微笑んだ。
「放課後、私と一緒に帰ってくれればいいの。
静葉ちゃんからイジメられる方が、クラスのイジメより辛くて…。
あと、相談に乗ってくれれば十分。
あとは自分でなんとかするよ。」
そう言いこのははむりやり笑った。
私はそんなこのはに笑いかけると、何かできることがあればしてあげようと心に決めた。
まずは静葉ちゃんとの関係をなんとかして、クラスのことはそれから様子を見てお手伝いしようと思った。
「今日から早速お願いできる?」
そう言うこのはに頷いてから、時間も時間なので教室に戻ることにした。
まさかこの話を誰かが聞いていたなんて思いもしなかった私は、放課後急いで準備するとこのはのいるクラスへ向かった。
教室内には人がほとんどおらず、このはの姿もなかった。
嫌な予感がした。
ひとまず下駄箱まで行って、このはの靴があるか確認してみると、このはの靴はまだそこにあった。
校舎内を手当たり次第探すのも、と思った私は、場所を絞って調べてみることにした。
イジメの定番の場所を探してみればいるかもしれなかったからだ。
数箇所探した後、私の教室を探すことにした。
放課後の教室で、静葉ちゃんがこのはをいじめているという葵ちゃんの言葉を思い出して、もしかしたらと思ったから。
このはの教室にはいなかったし、いるとしたら私の教室だろう。
急いで私の教室に向かい、勢い良く扉を開けた。
そこには確かに、このはの胸ぐらを掴む静葉ちゃんと、それを見ている梨乃ちゃんと葵ちゃんの姿があった。