栞ちゃんが陽翔くんにからむのがなぜ不愉快なのかは分からないけど、とにかく気持ちいいものではなかった。
目の前でいちゃつかれると本当に不愉快だ。
恐らく、私が陽翔くんのことを気になり出しているからだろうなと考えため息をついた。
結構前に静葉ちゃんが言っていた、「美澄ちゃんが相手なら身を引くよ」という言葉をふと思い出してまた1つため息をついた。
静葉ちゃんは分かってたのかもしれない。
私が陽翔くんを好きになるかもしれないことに。
まあ、まだ好きではないけど、好意はあるし…。
「美澄…さん、隣の人がすごい話しかけてくるんだけど…、なんとかして。」
ハァとため息をつきながらそう言う陽翔くんに、私は少し驚いた。
栞ちゃんは陽翔くんが仲が良いからそこまでからんでるのかと思っていたけど、どうやらそれは少し違うようで。
栞ちゃんを隣の人というあたり、仲が良いというほどでもないだろう。
「栞ちゃんのこと?
仲良さげだけど…。」
ほとんど棒読みでそう言うと、陽翔くんは勘弁しろよという顔をして、ため息をついた。
「隣の席になるまで話したことなかったんだけどさ。
なんか隣の席になってからめっちゃ話してくるんだよね。」
文句を言うというよりは、なんでそんなに話してくるのか私に尋ねるような言い方で話す陽翔くん。
あとで栞ちゃんに聞いてみるかと思い、適当に返事をしておいた。
静葉ちゃんたちとも席が遠くなり、明らかに私が1人でいるためか、クラスメートがよく話しかけてくる。
特に近くの席になった栞ちゃんが。
しかも陽翔くんと話したことを自慢げに話してきて、たまに「美澄ちゃんは陽翔のこと好きなの?」なんてニヤニヤしながら聞いてくる。
適当に返事はしているけど、きっと私が陽翔くんを気になっているのは知っているだろう。
知っていてわざと陽翔くんに話しかけて自慢してくるのだろう。
まあ、栞ちゃんはきっとそういう子なんたろうな。
そんなところが前の学校の友人だった菜摘と似ていてちょっとムカつく。
恐らく、栞ちゃんとは“本物の友達”にはなれないだろうな。
なりたくもないし、きっと拒絶するし。
とりあえず、そろそろこのはと話したい。
今は早くこのはと静葉ちゃんの問題を解決しないと。
そしてふと、もうすぐ体育会があり、応援団の練習なども始まっていることを思い出した。
このはが応援団に入ってなければいいんだけど…。
そう考えながら、とある放課廊下を歩いていた時だった。
「美澄ちゃん。」
いきなり名前を呼ばれ、ハッとして前を向く。
そこにはこのはが立っていた。
腕には相変わらず痛々しい痣や傷があった。
よく見ると増えてるような気もした。
まだ真新しい痣が見えた気がした。
「どうかした?」
と声をかけると、このはは下を向いて、静かに言った。
「昼放課、話があるの。
私のクラスに来てくれないかな。」
前よりも暗くなったこのはの纏うオーラに疑問を感じた私は、いいよと素直に頷いた。
このはは軽くお礼を言うと、ささっと走り去ってしまった。
そんなこのはの様子から、何かただ事ではない感じがして嫌な予感がした。
なんだろうと考えながら昼放課を待つ。
昼食を食べて、昼放課になったと同時に、なるべく静葉ちゃんに見つからないように廊下に出てこのはの教室へ向かった。
静葉ちゃんに見つかると厄介だと思ったからだ。