荷物を詰め込み、制服を着て、髪を結んで家を出る。

静葉ちゃんと気まずいはずだから、一緒に登校はできないだろうと思いながらも、いつもと同じ時間に家を出てしまった。

集合場所の近くまで来ると、静葉ちゃんが集合場所を無視して歩いていくのが見えた。

私は静葉ちゃんのすぐ後ろを歩くも、静葉ちゃんに話しかけはしなかった。

静葉ちゃんも同じように私に話しかけようとはしなかった。

靴を履き替え教室に入る。

今のところ嫌がらせなどはない。

というか、始業式に下駄箱や机に嫌がらせなんてなかなかないか。

教室の雰囲気はいつもと変わらなくて、ホッとはしたが、周りに葵ちゃんと梨乃ちゃんがいるためか気まずかった。

始業式が終わってからの教室内は騒がしくて楽しそうなのに、私の周りだけは微妙な空気が流れていた。

スッキリしないままその日は家に帰った。


翌日も同じように、くせで早く家を出てしまい、静葉ちゃんと遭遇した。

しかし静葉ちゃんも私も互いに話しかけないまま、学校についてしまった。

始業式と同じように誰も話しかけてこないのかな、なんて考えて下駄箱をあける。

すると、昨日とは違っていて、何か紙が数枚入っていた。

全部かき集め、その中の1つを手に取りあとは鞄にしまう。

紙には『私達友達じゃないの?』と書いてあった。

試しに他のも数枚開いてみるが、『一緒にやろうよ』『こっち側こないとかない』などと、悪口とは言い難い、何かしらのメッセージが書かれていた。

筆跡からして静葉ちゃんと葵ちゃん。

まだ開いてない紙の中に、梨乃ちゃんの書いたものも混じっているだろう。

嫌がらせとは言い難い嫌がらせだし、とりあえずしばらくは無視しておこうと考えながら、靴を履き替えた。

教室では気まずくて、葵ちゃんとも誰とも話さなかった。

けど、放課に1人で絵を描いていると、

「あれ?今日は静葉ちゃんたちといないんだね。」

クラスメートに話しかけられた。

2、3人の女子たちが集まってきて、興味津々に質問をしてきた。

喧嘩したのかとか、静葉ちゃん怒らせたのかとか、ワイワイと盛り上がりながら聞いてきた。

私はとりあえず、

「うんまあちょっと喧嘩しちゃって。」

と本当のことは隠して誤魔化しておいた。

ちょっと切なそうに笑っておくと、クラスメートも話を信じてくれたようだった。

早く仲直りできるといいねなんて呑気なことを言うクラスメートたち。

「そういえば、こうやってじっくり美澄ちゃんと話すのは初めてだよね。

私、心音。」

「あたし香菜。」

「しおは栞。」

1人1人自己紹介をしてくれて、私は真剣に聞きながら、顔と名前がちゃんと一致させていく。

「本当、話すのは初めてだよね。」

と返してふふっと笑った。

すると3人は顔を見合わせて気まずそうな表情をすると、近付いてきて、

「今までは静葉ちゃんがいたから話しかけれなくて…。」

と顔の前で両手を合わせた。

静葉ちゃんがいたから、という言葉が頭の中をグルグル回る。

予想はしていたけど、やはり静葉ちゃんたち以外の友達ができなかったのは静葉ちゃんがいたからだそう。

まあ別に、だからといって静葉ちゃんが最低というわけでもないけれど。

むしろ、静葉ちゃんは最初に声かけてくれて感謝しているし。

けれど気になるのは、静葉ちゃんがいたからというクラスメートの心理。

もし静葉ちゃんが嫌われてるなどというなら、その理由も知りたい。

クラスの人間関係はできるだけ知っておきたいものだ。

「静葉ちゃんがいたから?

静葉ちゃんいると話しかけれないの?」

と、私はなるべく自然に尋ねた。