ふと窓の外へ視線を遣ると、桜の花弁が
楽しげに囁くように揺れていた。

私はオリエンテーションの嵩張る資料を
新品の革バッグに詰めて、帰路に着こうとする
同期達を尻目にある場所へ向かおうとしていた。

講義室を抜け、購買や学生課の前を通り過ぎると
見過ごしてしまいそうな位小さなドアがある。

内開きのそのドアの向こうには簡素なエレベーターに
薄暗い階段。ワンフロアくらいなら造作ないと判断し
階段を上る。

どこかひんやりとしたこの建物は通称“部室棟“だと
聞いた。学内数十個あるサークルの拠点が
この建物内に置かれており、ひんやりとした
空気とは裏腹にどこか言い知れぬエネルギーが
満ちているような気がする。

入学式で配られた1枚の小さなチラシを元に、
私はひとつひとつ部室の名前を確認していく。

すると、危うく素通りしそうになったひとつの部屋が
チラシのタイトルにでかでかと書かれている
名称と同じことに気づいた。

「Sign College」

ごくりと唾を飲み込み、遠慮がちにノックをする。

中から、くぐもった声で「どうぞ」と聞こえた。

鉄製の重い扉のノブに手をかけて、
少しだけ顔を覗かせた。

「すみません、見学に伺ってもよろしいですか?」