Side C 新米三役の一名の視点

実習が終わって、息つく間もなく4月がやってきた。
今日から実質、部内での最高学年になるだなんて
俄には信じられない。

校内をキャラメルマキアートを啜りながら
インソールスニーカーでしっかりとリノリウムを
爪先で蹴るようにして歩いていると、見慣れた、
見慣れない背中を見つけた。

図書館から借りてきたのだろう、手にしている
分厚い専門書の背表紙には緑のラベルのバーコードが
貼り付けられている。あの本は去年、私も
随分とお世話になった本だ。もしかしたら、延長に次ぐ延長で
引き延ばすだけ引き延ばして借りていた本だから、
少しは私のANNA SUIが残っているかもしれない。

こちらに気付く気配もなく、アイツは
黒縁眼鏡の奥の伏し目がちな睫毛の隙間から
熱心に活字を追っている。
後ろから茶化そうかと一瞬迷ったけれど、
去年の私ならそんなことされたらきっとブチ切れていたであろうから自粛する。

残り少なくなったキャラメルマキアートをずず、と
啜ると、ストローが舌のピアスを転がした。

私が私である為の、大事な刻印だ。

身を翻して、私は部の宣伝チラシを取りに行く為に
足早に廊下を駆けた。

アンダーグラウンドと、日常と非日常の狭間。
1歩進む度胸元の土星のペンダントが揺れ、
じんわりと滲む汗で首のチョーカーが張りつく。

そんな、私が好きで身につけているものが、
私が私であることを嫌でも思い出させる。

もう、戻らないと思ったのに、私は
自分で自分自分を縛り付けている。