「好きです」
「どうして?」
ジェイドは空を見上げた。今日は新月。世界から希望の光が閉ざされ、代わりに星々が人の不安を埋めるように煌めく。
「暗くて、何も見えないから誰かに視られることがない」

(本当は分かっている。此れが逃げでしかないことを)

「静かで、何も聞こえないから耳を塞ぐ必要がない」

(もっと別に言葉にしなければいけないものがある。でも・・・・)

「人間は寝ているから、誰にも会わずにすむ」

(僕は逃げた)

「人間、限定なんだ」
スカーレットはからかうように言った。本気でからかっているわけではない。ジェイドの抱えているものを少しでも軽くできるように、わざとやったのだ。
「人間は嫌い」
「何故?」
「干渉してくるから」
人は好奇心旺盛だ。何かあると「どうしたの?」と聞いてくる。中には友人として本当に心配している人も居るかもしれない。でも、好奇心から聞いてくる人も居る。其れらを分別するのは難しい。だから、其れ事態を嫌う人も居る。ジェイドも其のタイプだ。
だが、ジェイドの人間嫌いを額縁通りにとらないのは長年、彼の姉をやってきたスカーレットだけだ。だが、ジェイドも過去に色々あった。だから、深く追求することはしなかった。そういうのは本人が話したくなった時に聞くことにしている。
「あなたにとって夜は自分自身を隠せる唯一の安らぎの時間?」
「はい」
「そんなに自分が嫌い?」
「はい」
「どうして?」
「僕はとても醜く、穢れているから」
ジェイドの容姿は並みよりも上だ。醜いというのは姿形ではなく、心根のことだ。
「己を醜いと言えている間は、其処まで醜く穢れてはいないと思うけど」