――逃げられないかも。
そんな焦りがじりじりと胃を焼いた。
「ベッドじゃなくても別にいいさ。ここでだって充分楽しめる……」
欲望にかすれた低い声が至近距離で耳朶をたたき、ぞくりと走る悪寒に身をこわばらせる。
そのまま耳を食まれて、私は身をよじった。
「やめっ……」
気持ち悪い。
気持ち悪すぎて、吐き気がする。
その時、ピンポン、ピンポン、ピンポーンとせわしなくインターフォンが鳴りひびき、ほぼ同時にドアが大きな音を上げて開いた。
どかどかと、走りこんでくる複数の足音。
「何をしている!?」
「茉莉ちゃん!」
聞こえてきた祐一郎さんの怒声と、心配げなスマイリー主任の声に、足の力がガクリと抜けてしまう。
――た、助かった……。