「何も、固く考えることはないさ」

その手がゆっくりと、制服のボタンを外しはじめる。

頭の上で押さえられていた手が片方になったことで、逃れられるかと力を入れてみるが、細身であっても相手は私よりも上背がある成人男性。

悲しいかな、びくともしない。

「放して」

怒りでショートしそうな気持をどうにか抑え込んで、低い声を絞り出す。

「せっかくこんな場所にいるんだから、楽しめばいい。なんなら、お小遣いをはずむよ?」

な、にを……!

いうにことかいて、『お小遣いをはずむ』って!?

怒りが沸点に達したせいか、妙に冷静になった。

この状況を脱する方法に考えを巡らせた私は、すうっと全身の力を抜いた。

もちろん、あきらめたわけじゃない。

あきらめたと見せかけるため、

相手の油断を誘うためだ。

案の定、彼は私が抵抗をあきらめたと思ったのか、私の手を押さえていた自分の手を外して、ニヤリと下卑た笑いを浮かべた。

その瞬間を見逃さず、私は柔らかいベッドに体を沈み込ませ、その反動を利用して思いっきり頭突きを繰り出した。

ゴチン! 

とこの場の雰囲気にはふさわしくないコミカルな音が上がり、呻き声とともに男の体がわずかに離れた。