「いつも、茉莉がお世話になっています。このたびは、社員寮まで破格の家賃でお世話くださり、ありがとうございます。しかし……」

と言って、父は目前にそびえたつ高級マンションを見上げて、つぶらな目を瞬かせた。

「本当に、ここが社員寮なんですか?」

寮の家賃は、給料天引き社員価格で格安の1万円ぽっきり。それも、消費税込みの管理費なし。

さすが、社員は福利厚生が手厚い! と手放しに喜んでいたけど。

どうみてもその数十倍はするよね、ここの家賃。

「ここで間違いありませんよ。ここは社長個人の自己所有マンションなので、空いている部屋は社員寮として提供しているんです。かく言う俺も、このマンションの住民の一人なんですよ。あ、申し遅れました、主任の佐藤です」

と、ニコニコ笑顔で説明してくれたのは、スマイリー主任。

「そうでしたか。ああ、私は茉莉の父の徳太郎です。茉莉がいつもお世話になっております」

スマイリー主任と自己紹介をし終えた父が、

「良かったな茉莉。亀水槽を置いても床は大丈夫そうだぞ」

と、ニコニコ笑顔で話を振ってきて、その内容にぎょっとする。

「お、お父さんっ!」

実は、亀子さんの九十センチ水槽に水を入れると、かなりの重量になるため『家賃が安いから床が抜けないか心配なの』と父にぼやいた経緯があるのだ。