「なあ、茉莉……」

と、父がそこまで言って言葉を濁した。

いつもなら、物事は白黒はっきりしないと気が済まないタイプの父が、こんなに言いにくそうにしている。

私には、父の言いたいことが何となく想像が付いた。

たぶん――。

「これからのことなんだが、この家は、借金の抵当に入っていて、手放さなきゃいかん……」

――やっぱり。

「うん……」

私は、コクリと頷く。

「それと、大学のことなんだが……」

前期の学費は支払い済みだが、10月の後期の学費がおそらく払えなくなるだろうと、父は声を詰まらせた。

私が通っている美大は私立で、学費は年間180万ほど。これを4月の前期と10月の後期の2回に分けて約90万ずつ支払う。

五か月後に90万円の支払いができなければ、大学には通い続けることはできない。

今までは、あまり深く考えなかったその金額が、とてつもなく大きく感じる。

「すまん……」

これは、昨日の父の様子から、そうなるんじゃないかと想像はしていたこと。

その言葉に、私はただコクリと頷いた。

それしか出来なかった。