―魔法界・統領室


「それで・・例の・・『アレ』はどうした?」
囁くような声が、統領室の外へと少しだけもれる。

ドアを開けると、それが魔法界の統領である、カルド・ギフレインだと分かったはずだったが、部屋の辺りには誰もいなかった。
ギフレインは、数秒に一度、辺りを見回しながら用心して囁く。


「ええ、それが・・・・まことに申し上げにくいのですが・・」

秘書であるメヌエス・シュタットが一息置いて続けた。

「実は・・盗まれまして」

シュタットの顔は、真っ青になっていた。これから先のことを、全て予想したうえで。




「盗まれた!だと!?」

囁くようなギフレインの声は、今まさに叫び声となっていた。

シュタットは下を向いたまま微かに首を下げた。
それが、頷いたのか俯いているからかは分からなかったが、シュタットは俯いたままでいる。



「まさか!そんははずは無い!!警備は最高だったはずだ!」

ガラスだが強力な魔法をかけ、割れないようにされている窓が、ギフレインの声で小さく振動した。
シュタットは、まだ俯いたままだ。



「シュタット!答えよ!お前があの警備主任だったはずだが!?」



ギフレインはもう一度叫んだ。あまりの大きさに、声はかすれている。
シュタットは恐る恐る顔をあげる。だが、視線は下がったままだ。