いとしま、と。
倒れる瞬間に聞こえたのは、間違いようがない。
市野先生の声。
さっきまで触れていたと思われる場所を意識してしまう。
「糸島ちゃん、ごめん。今日このあと職員会議なのよ」
「あ、大丈夫ですよ」
「申し訳ない。鍵は開けたままでいいから。顔色は……まぁ、大丈夫かな? 不安だったらもう少し寝て帰っても大丈夫だし、ふらつくようなら待っててくれたら送ってあげる」
「大丈夫ですって。ありがとうみちる先生」
「うん。けど、どちらにせよ市野先生は職員会議終わったら来るんじゃないかな?」
みちるちゃんは意味ありげにそう笑って、保健室を出て行った。
そんなこと言われたら。
「……居づらくなるじゃん」
でもまだ少し目が回るから。
ほんとに少しだけど、帰り道にまた倒れて人に迷惑かけてしまうのも忍びないから。
私はもう一度だけ眠りにつく。
小唄、と誰かが名前を呼んだ、気がした。