わかっていたけど奇しくも6時間目は体育だった。

6時間目の体育は億劫だ。
ただでさえ着替えが面倒なのに、それが6時間目なんて、ホームルームが始まるのも段々遅れていくし。そんな日に小テストなんて言われると残りライフは一気にゼロまで削られる。

何より致命的に体操服やジャージが似合わない。これは私に限った話。






腕まくりをして、障害物走のハードルを運びながら男子の体育を盗み見る。

今日はむこうは棒高跳びらしい。

くるくる。

ひらひら。

クラスメイトたち器用に身を翻して軽々とバーを越えて行く。







「いっちー4.5m跳んで!」

「えー」



男子がクラスメイトに言うノリで市野先生にふっかける。

いっちー。

三年生で、市野先生、なんて呼ぶのはクラスのおとなしい眼鏡女子(うつくしい)くらいで、みんな先生のことをいっちーと呼んだ。

リクエストされた先生は仕方ないなぁと言いながら乗り気で腕まくりをしている。





(……失敗しろっ)





陰気に負の念を送る。

そしたらガシャンと音をたてて先生はバーに激突して、しまった、と思うと同時に駆け出しそうになる。

私が行って、どうする?




ハードルを抱えたまましばらく立ち尽くしていると、市野先生は失敗を気恥ずかしそうにしながら起き上がった。



「……」




よかった。


失敗しろなんて念じておいて。










「小唄ー」



友達が遠くから私を呼んで、その声のほうにまっすぐ返事をする。



「ごめん潤ちゃん、すぐ行くー」



そう行って、ハードルを二つ脇に抱えて一歩踏み出したときに、






「あ」









卒倒。




6時間目が過ぎればあとホームルームだけだったのに。



遠くなる意識の端っこで、「糸島!」と誰かが叫んだ。