保健室には秘密がある。
〝ベッドで眠ると記憶が抜け落ちる〟なんて、そんな都合のいいファンタジーで隠した、二人の関係。
でも結局二人で掘り起こしてしまった。
二人の間に、秘密なんて最初から何もなかったののだ。
忘れたフリをするのも難しい。
授業の合間の移動時間、彼が私のクラスの前を通る時間を知っているからつい見てしまうし。
去年の誕生日にプレゼントしたネクタイをつけている日は、ついそのネクタイを見てしまうし。
ホワイトデーにもらったピン留めは、こっそり使いたくなってしまうし。
いちごミルクが好きだって知っているのに、知ってるって言えないのは歯がゆいし。
致命的だったのは眠っている間のことだ。
記憶喪失を装った半年間、彼は保健室で眠る私に何度もキスをしたけれど、それ以外に、ずっと髪を梳いてはため息をついていた。
いかにも「後悔してる」ってそのため息が語るものだから、私は眠りに落ちることができずに。寝たフリか、浅い眠りなのか、夢とも現実ともつかず何度も、彼の苦悩のため息を聴いた。
私はもう眠ってやり過ごしたりしないと心に誓う。
目を覚ました眠り姫は、高校生活の残りの半年を必死になって生きる。
勉強もするし友達と思い出だってつくるし、先生とも恋をする。
「久詞」
「……ん?」