体育準備室での話し合いを終えて、私たちは保健室へと向かう。
テスト期間の放課後の学校は静かで、ほとんど生徒とすれ違うことがない。
「手つないじゃう?」
「つながない」
「小唄のツンがなおらない……」
「そういう問題じゃなくて」
昔から彼には危機感がない。
だけどうまく隠し通せる自信があった。幼い甘さで失敗なんてしない。だって少女漫画みたいなご都合主義の展開、私たちにはないから。現実を生きてる私たちは、バレたからって学校辞めます! というわけにはいかない。社会生活を営んで、これからも生きて行かないといけない。
でも〝うまく隠し通せる自信〟なんていうのは幼い甘さでしかなかった。
「……泉谷くんって」
「あぁ、C組の? っていうかこの間お前の席行ってただろ」
「そう言えば見てたね……」
「泉谷が何?」
「泉谷くんに見られてた。体育準備室でキスしてたの」
「……まじで?」
「うん」
ふーん、なんて、ちょっと口元が笑ってるところに危なさを覚える。
それと同時に、嫉妬への甘い幸福感。
酔ったお姉ちゃんが言っていた言葉が、思い出すたび心に突き刺さる。
〝高校生の浮かれた付き合いなんて思い出しても恥ずかしことしかないのよ〟
浮かれてると思う。
きっと大人になったら私も恥ずかしくなって、〝あの頃の自分死ねぇぇぇ!〟ってなるんだろう。今の私は未来の私から見ればきっとぶちたくなるほど考えが甘いに違いない。
でも死なないし、やめない。
結局彼も私もまだ、一緒にいることを選んだ。
保健室が見えてきて、彼は私に言った。
「小唄。お前、みちるにはちゃんと謝っとけよ」