男の〝子〟? と疑問が浮かぶ。
彼が着ているシャツもスラックスも制服ではなさそうだし、でも先生にしては若い気がする。

戸惑っていると彼が先に口を開いた。



「新入生?」



若干鼻声のその問いかけにこくりと頷く。

さっきからちょっと思ってたけど、この人、鼻が赤い。それに目も赤い。



「…………花粉症?」



私の問いかけに、彼もこくりと頷く。

正体はわからないけれど、花粉症というだけで少し距離が近付いた気がした。
とても整った顔をしているのにちょっと残念で、それがちょっとかわいい。

部屋をぐるりと見回したが、保健の先生は不在のようだ。そりゃそうか。入学式終わったところだもんな。



そうだ、と思い出したようにまた目がまわりだす。
ベッドを見つけて、直行しようかどうしようか迷って、彼のほうに向きなおった。



「花粉症の薬、探してるんですよね?」

「うん……」



何者かはわからないけど、外見的に歳は上だろうと敬語を使ってみたが、困ってる姿が本当に子どもみたいだ。だから放っておけなかった。



「薬……は勝手に出しちゃだめだと思いますけど」

「だよなぁ……。保険医いつ戻ってくんのかな……」

「ごめんなさい。わかんないです」

「だよね。新入生にわかるわけがない」



はぁ、とその人は苦しげに息を吐いた。