「…………もうやめるの?」
「忘れたフリ?」
「うん」
「やめてほしい」
「……自分が忘れるよう言ったのに、なんで先生が嫉妬するの?」
「…………それも聴いてたの?」
かっこ悪すぎるな、と彼はため息をついた。
あの日、みちるちゃんとタバコを吸っていたときに聴こえてきた。
〝たぶん、久詞はね。嫉妬したんだと思うな。自分以外を選んだ糸島ちゃんに。〟
それがどれだけ歯がゆかったか。
「……嫉妬なんだろうなぁ。忘れてって言ったのを受け入れた小唄に。俺といることより、これからの色々のほうをとるんだなーって。そうして欲しいと思ってたはずだし、そりゃそうだよなーって思ってたんだけど、なんかダメで」
保健室で一つだけ抜け落ちる記憶。
何を忘れたのかも忘れてしまう魔法。
都合のいいファンタジーで、私と彼の春と夏は過ぎてしまって馬鹿みたい。
どちらも本当は自分を選んでほしかっただけ、なんて。
「私べつに、楽しいことなんていらなかった」
「……」
「先生といるのを、楽しいことって呼ばないなら、楽しいことなんてどこにもない」
「ははっ」
「……何笑ってるの」
「久しぶりにデレたと思って」
「……」
真面目に言ったのに、と思って腹を立てていると、
「機嫌なおして小唄ちゃん」なんて調子のいい唇が言って、手の甲にキスをした。
裁判は閉廷。
私の半年にわたる小さな嘘は暴かれた。