先生はもう一度言った。
「お前は、なんにも忘れてない。忘れたふりをしてるだけだ」
こんなにはっきり言葉にされたらもうかわしきれない。
「……なんでそんな、本当のことを暴きたがるの?」
「……寂しくなったから」
「ほんと馬鹿」
「先生に馬鹿って言うな」
「…………」
「うそ。なんでもいいから、先生とか、そんなことで線引きしないでくれ」
自分勝手な王様はそう言って、私の手を握ってしゃがんだままうなだれてる。
ずるい。
完全に敗北のポーズをしながら、私を負かそうとしているんだ。
こんなに頑張ってきたのに。
「……なかったことにしたいんだ、って思ったから、頑張ったんです。私」
「うん」
「本当に記憶なくしたみたいだったでしょ? 自分でもうまくできてたと思います」
「……うん。演技うますぎだ。本当に忘れられたみたいで」
だから切なくなった、と彼は、握る私の両手を額につけて、その顔を隠して言った。そんな仕草もずるく思える。