ゆっくりとベッドの上に降ろされる。
先生が鼻をすする音が聴こえた。
今日もまた一段と花粉がひどいらしい。
私の問いかけには答えてくれずに〝あー鼻たれる〟なんて言ってティッシュを探している。
「私は何を忘れるの?」
目を開けているのが少し辛かった。横になってもまだくらくらしてる。
先生はティッシュを見つけられずに鼻をすすり続けながら、ごく自然に言う。
「俺と付き合ってること」
「……別れるってこと?」
「別れるっていうか、忘れるんだよ、糸島が。俺と付き合ってたなんて事実は綺麗さっぱり。次に目を覚ますときには忘れてる」
「…………」
「なぁ糸島」
ティッシュを探すことを諦めたらしい先生は、屈んで顔を近づけていた。目が合って、〝あ、冗談じゃないんだ〟と分かって、何も言えなくなる。
「これから楽しいこと、いっぱいあるよ。受験はまぁちょっとつらいだろうけど、まだ体育大会も文化祭もあるし。修学旅行もあるし。卒業して大学に行ったら、今よりもっと楽しいかも」
「……」
「俺にかかずらってる場合じゃないよ」
面倒くさくなったの?
今更あぶないって思ったの?
ただ冷めたの?
そのどれもな気がして、何も訊けなかった。
「目ぇ閉じて糸島」
何も訊けずに目を閉じた。