「久詞も久詞よねぇ。あれで隠してるつもりなんでしょうけど、二人とも脇が甘すぎるわ」

「……なに言ってるかよくわかんないよみちるちゃん」

「……」



あくまでとぼけるのね、とみちるちゃんは魔女的なうつくしさで微笑む。

久詞、と市野先生の下の名前を読んだ唇が、目に焼きつく。



それ以上は追求されなかった。





程なくして市野先生が保健室に戻ってきた。日はすっかり傾いていて、保健室に上体だけ起き上がらせた私の影を落とす。影は市野先生の足元まで伸びていた。



「帰ろう、糸島」



その呼ばれ方になんだか、今度は安心している。

ベッドを降りて制服のスカートをパンパンとはたいて皺を伸ばす。ありがとうございます、とお礼を言って市野先生から鞄を受け取った。

ーー今更なんでもない顔しても、もうバレちゃってますよ。



心の中でそう唱えてもテレパシーなんてない。

きれいな顔が ん? と窺ってくるのが腹立たしいだけだった。




「みちる先生さようなら」

「はい、さようなら。気をつけるんだよー」




ひらひらと手を振るみちるちゃんは何もかもわかってるみたいな顔でそれにも腹が立った。


私の高校生活は、卒倒と立腹ばかりだ。