どうして目を閉じてしまったんだろう。
きっと直前のキスで思考を溶かされた。
また食べられてしまう……と思っていたら、ガラガラと保健室の扉が開けられた。
「……」
目の前にあった市野先生は慌てて離れていくこともなく、そっと私の額に手をのせる。
「あ、やっぱり来てた」
部屋に私たちを見つけるなりみちるちゃんは「ほらご覧なさい!」とドヤ顔を私に見せた。
「……しかもなんだか危うい体勢ね?」
市野先生はベッドに手をつき、私の額に手のひらを載せている。
「熱はないみたいですよ。顔色もだいぶよくなったみたいで」
「ほんと?なんかちょっと赤くない?」
まずい、と思って努めて冷静に答える。
「赤くありません」
「ふーん……?」
みちるちゃんはにやりと笑って、ま、いいけどと言った。怒ってないんだろうか。
「市野先生、今日部活は?」
「休みです」
「じゃあ、糸島さん家まで送ってもらえますか?」
「あぁ、はい」
「……」
みちるちゃんの態度はいたって余裕だった。
「じゃあ糸島、お前の荷物もとってくるから。鞄だけでいいか?」
「はい」
「じゃあまた後で」
そう言ってあっという間に市野先生は保健室からいなくなる。あとに残された私とみちるちゃんはじっと見つめあうしかない。
「……あなたも我慢が足りないんじゃない?」
にやりと笑ったその顔に、心の中で〝魔女め〟と毒づいた。