〝前は、あんなに好きって言ってたのにな〟?
「……な、に言ってるんですか」
「別に」
「そんなこと、言ってないじゃないですか。勝手に変な事実を作らないでください」
「うーん……そうなるのか」
市野先生は、先生じゃない顔をしている。
上体を起き上がらせた私の横にギシッと手をついて見つめてきた。
顔が近い。
「ほんとに忘れたんだな」
だから何を言ってるの。
わけがわからないことばかりでイライラする。
「……そんな風に言われたって、あぁそうだった!って言って納得したりしませんよ」
「納得しとけよ」
「先生」
顔近い、と率直に言っても離れてくれない。私を運んだあとに着替えたらしいワイシャツの、あいた一番上のボタンに目をそらす。
吐息がかかると息苦しい。
「……思い出すかなぁ、と思ったんだよ。キスしたら」
そう言って先生は自分の唇をペロッと舐めた。その口はさっきまで、と思うと全身が粟立つ。
それはどうして?
「……あんなすごいキスで?」
「うん。あんなすごいキスで」
もう一回する? と訊かれて、
迷って、
私は目を閉じた。