名前を呼ばれてからほどなくして、
生暖かいものがくちびるを覆う。
それは少し私の下唇を食んだかと思うと、べろ、と上唇の裏を舐めて。
私の口内を優しく侵す。
食べられてるみたい。
頬に触れた指先はやさしく輪郭をなぞって。
満足したのか、熱い吐息と生暖かいものは遠ざかっていった。
「先生は、」
ぱちりと目を開く。
「先生は欲求不満なんですか?」
そう言うと間近にあったよく知る副担任は目をぱちくりさせて、遅れて罰が悪そうな顔をした。
「……寝たフリかよ」
きたねぇな、と自分の唇を舐めながら市野先生は不満気に言う。
きたないのはどっちだ。
「教え子が寝てる間に、チュー」
「しかもディープなやつ」
「完全に淫行罪で捕まるやつじゃないですか」
「やべー」
「っていうか、何してるんですか、先生」
真面目にそう言っても先生は表情を崩さない。
いま先生にされたことの意味を考える。
先生は、教え子が眠っている間にキスをした。
「……きもちわるい、んですけど」
「……ひでぇ」
「ひどいのはどっちですか。こんなの、冗談でもなんでもなくセクハラですよ」
そう言うと先生はやっと表情を変えて。
でもその表情は、
しまったとか、反省の色はなくて、
ただせつなそうで寂しそうで。
ふ、と笑ってこう言った。
「前は、あんなに好きって言ってたのにな」
「……え?」
何を言ってるんだろう? この人は。
何がしたいんだろう。 この人は。