眠っていれば、たいていのことはやりすごせる。
見たくないものも聴きたくないことも、
目が覚める頃にはすべて過ぎていた。
いつもそうだった。
だから眠るのは好きだ。
みんなが教室で授業を受けているなか、
ふかふかの布団で睡眠を貪るのは最高の贅沢。
ふと人が傍にいる気配がして、うっすらと目を開ける。
「……こら、糸島。いい加減起きろ」
見慣れた副担任が不機嫌な顔で私を見下ろしていた。
ゆっくりと覚醒する。
制服のスカートが皺になっていないか気にしながら、まだ布団からは出ない。
「……何時ですか? いま」
「11時過ぎだ。さすがに寝すぎだろー。もう4限が始まる」
「4限……ってなんだったっけ」
「現国」
「現国かぁ……」
「おい待て。寝なおすな。現国って聞いた瞬間やる気をなくすな!」
「だって香月先生の音読嫌いなんだもん」
「それくらい我慢しろっ」
そう言って無理矢理布団をひっぺがされる。ふわりと掛布団が舞う。布団の中でスカートが捲れあがってたらどうしてくれるの! と思ったけどきっとどうもしない。先生はたぶん悪いとも思わない。
「まったく……。俺が高校生のときだってもうちょっと真面目に授業出てたわ」
「それいつの話?」
「…………7年前?」
7年前か。と心の中で復唱。
それはそのまま私と先生の歳の差になるのか。