家の門を左に曲がってすぐに見えるのが颯人の家。


インタンホンを鳴らすと、玄関越しのハーイの声と共に、由香里ちゃんが扉を開けてくれた。


「紀伊ちゃん!こっち、こっち!」


届け物を渡して帰るつもりが由香里に手をひかれ、リビングまでひっぱられた。


「紀伊ちゃん、ごめんね。今洗い物してたから」


「いえ、こちらこそお邪魔してます。これ、お母さんが会社の人からいっぱいもらったみたいで。よかったらもらってください」


ちょうど洗い物を終えたおばさんに袋を手渡す。


「何ー⁈それ!」


由香里ちゃんが興味深々で袋を覗き込む。


「さくらんぼだ!やったー!」


由香里ちゃんが満面の笑みを私に向ける。


「こんなにもらっちゃっていいのかしら。私もさくらんぼ好きだから嬉しいわ。ありがとうって伝えてね」


「はい、よかったです」


「ね!紀伊ちゃん、由香里の部屋きて!ね⁈」


由香里ちゃんがまた私の手をひく。


「えっと、もう遅いし」


もうすぐ時計の指針が9時をさそうとしていた。


「紀伊ちゃんがよかったらゆっくりしてって。久しぶりなんだし」


「やった!ね⁈いいでしょ、紀伊ちゃん」


「う、うん」


多少困惑しながら由香里ちゃんに連れて行かれるがまま、由香里ちゃんの部屋に入った。



部屋に入ると小学校で作った作品や賞をとったというピアノの発表会の表彰状を見せてくれた。


由香里ちゃんの学校のことを話していると、コンコンと音がして扉が開いた。